愛の伝説

バレエ『愛の伝説』：愛と犠牲の物語

『愛の伝説』（露原題：Легенда о любви、英：Legend of Love）は、1961年に初演された全3幕のバレエ作品です。トルコ出身の詩人で共産主義者としても知られるナーズム・ヒクメットの同名戯曲を原作とし、アゼルバイジャン出身の作曲家アリフ・メリコフが音楽、そして、当時キーロフ・バレエ団に所属していたユーリー・グリゴローヴィチが振付を担当しました。この作品は、女王メフメネ＝バヌー、その妹シリン、そして宮廷画家フェルハドの3人を中心とした、愛と義務、献身と自己犠牲のドラマを描いています。

ヒクメットの原作と時代背景

ナーズム・ヒクメットはトルコの名家に生まれながらも、共産主義思想に傾倒し、ソ連で学んだ経験を持ちます。帰国後、共産党活動や演劇活動に携わった彼は、反政府活動容疑で逮捕・投獄されました。釈放を求める声は国際的に広がり、最終的にソ連に亡命します。『愛の伝説』は、その投獄中に書かれた作品で、古い伝説を基に、女王、妹、宮廷画家の3人の愛憎、そして「鉄の山」に阻まれた民衆の苦しみと、フェルハドの自己犠牲的な行動が描かれています。ヒクメットの社会主義的な思想と、伝説的な物語が融合した作品と言えるでしょう。

メリコフの音楽とグリゴローヴィチの革新的な演出

音楽を担当したアリフ・メリコフは、アゼルバイジャン出身の作曲家です。アゼルバイジャン音楽院でカラ・カラーエフに師事し、『愛の伝説』以外にもバレエ音楽や映画音楽を手掛けています。彼の音楽は、作品の世界観を効果的に表現し、物語のドラマ性を高めています。

振付家のユーリー・グリゴローヴィチは、当時、セルゲイ・プロコフィエフの『石の花』の新演出で成功を収め、注目を集めていた新進気鋭の振付家でした。『愛の伝説』では、当時のソビエト・バレエに多く見られたマイム（身振り）に頼る表現方法を避け、踊りを中心に物語を展開するという革新的な試みを行いました。群舞は単なる背景ではなく、ソリストと一体となって物語を進行させ、その心情を表現する重要な役割を果たしています。群舞が次々と登場し、踊りの流れで物語が展開していく演出は、特に第2幕のシリンとフェルハドの逃避行や、メフメネ＝バヌーによる追跡の場面で見事に効果を発揮しています。

初演とその後

『愛の伝説』は、1961年3月23日、レニングラード（当時）のキーロフ・バレエ団によって初演されました。コルパコワ、モイセーエワ、グリボフといった当時のスターダンサーたちを配役し、大きな成功を収めました。その後、ソ連国内だけでなく、チェコスロヴァキアなどの東欧諸国でも上演され、高い評価を得ています。1964年にはグリゴローヴィチがボリショイ・バレエ団に移籍し、プリセツカヤ、ベスメルトノワ、リエパといったスターを起用して再演。ボリショイのレパートリーとして定着し、現在でも世界中で上演され続けています。

物語の概要

主要な登場人物は、東方の国を治める女王メフメネ＝バヌー、その妹で重病のシリン、そして、2人の姉妹から愛される宮廷画家フェルハドです。物語は、シリンの重病を治すためにメフメネ＝バヌーが大きな犠牲を払うところから始まります。その後、フェルハドとシリンの恋、メフメネ＝バヌーの苦悩、そしてフェルハドの民衆への献身といった、複雑な人間模様が描かれ、愛と義務、自己犠牲といったテーマが深く問われます。特に、「鉄の山」を切り開いて水路を作るというフェルハドの行動は、個人の愛と社会への奉仕という葛藤を象徴的に表現しています。

作品の評価

『愛の伝説』は、グリゴローヴィチの代表作として高く評価されており、特に東欧諸国では頻繁に上演されています。ヒクメットの詩的な原作、メリコフのドラマチックな音楽、そしてグリゴローヴィチの革新的な演出が見事に融合したこの作品は、バレエ史に残る名作として、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。その物語は、時代を超えて、愛と犠牲、そして人間の精神の強さを訴えかけています。

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