摩耶観光ホテル

摩耶観光ホテル：モダニズム建築の遺産と、数奇な運命

神戸市の摩耶山山腹に佇む摩耶観光ホテルは、1930年の完成以来、長く人々に親しまれてきたホテルです。しかし、現在は廃墟として、独特の雰囲気を放つ存在となっています。その歴史は、摩耶鋼索鉄道の福利厚生施設「摩耶倶楽部」として始まりました。その後、摩耶ホテル、摩耶山温泉ホテルなど様々な名称を経て、戦後の改装で「摩耶観光ホテル」となり、国際観光ホテルと名乗る時期もありました。

建築家の今北乙吉によって設計された建物は、アールデコ様式を取り入れた独特の外観が特徴です。軍艦を思わせるその姿から「軍艦ホテル」の愛称で親しまれ、鉄筋コンクリート造りの堅牢な構造は、幾多の時代を生き抜いてきました。しかし、台風被害や老朽化による損傷、そして1995年の阪神・淡路大震災の影響を受け、ホテルとしての営業は1967年に一旦休止。その後は、学生合宿施設「摩耶学生センター」として活用されましたが、1993年に閉鎖されました。

閉鎖後は、廃墟として人気を集め、「廃墟の聖地」「廃墟の女王」と呼ばれるほどになりました。内部は老朽化が進み危険な状態であったため、長らく立ち入り禁止となっていましたが、2017年から外観の見学が可能となりました。

その歴史的価値と建築美が認められ、2021年には国の登録有形文化財に登録されました。これは、廃墟となった建物としては非常に珍しいケースであり、その価値の高さが改めて証明されたと言えるでしょう。

摩耶観光ホテルは、単なる廃墟ではありません。その歴史、建築様式、そして数々の映画やミュージックビデオのロケ地として活躍した経歴は、人々の記憶に深く刻まれています。

摩耶観光ホテルの変遷

1930年: 摩耶鋼索鉄道の福利厚生施設「摩耶倶楽部」として開業。
戦前～戦中: 摩耶ホテル、摩耶山温泉ホテル、摩耶山温泉と名称変更を繰り返す。
戦後: 改装を経て「摩耶観光ホテル」として営業再開。内装には、かつて大阪で解体された豪華客船「ふらんす丸」の装飾品が使用されたという逸話も残っています。
1967年頃: 台風被害などを理由にホテル営業休止。
1970年頃～1994年頃: 「摩耶学生センター」として学生の合宿施設に転用される。「マヤカン」の愛称で親しまれる。
1995年: 阪神・淡路大震災を経験するも倒壊は免れるものの、建物に大きな損傷を受ける。
* 2021年: 国の登録有形文化財に登録される。

ロケ地としての摩耶観光ホテル

摩耶観光ホテルは、その独特の雰囲気から、多くの映画やテレビ番組、ミュージックビデオのロケ地として利用されてきました。代表的な作品には、以下のものがあります。

映画:『過ぎし日のセレナーデ』（1989年）、『春日和』（1967年）、『ユー・ガッタ・チャンス』（1985年）、『IZO』（2004年）、『デスノート Light up the NEW world』（2016年）など

テレビ番組:『廃墟シネマ』（2000年）、『廃墟』（2000年）、『新日本風土記「廃墟」』（2015年）、『廃墟の休日』（2015年）、『夢のあとさき 〜日本遺構見聞録〜』（2023年）など

ミュージックビデオ: ACTION!「TEARS OF LOVE」「夢みる頃すぎて」、サクヤビメ「Unrequited love」、DEEP UNDERWATER「Salvage」など

摩耶観光ホテルの現在と未来

現在、摩耶観光ホテルは大阪府箕面市の運送会社が所有しています。保存に向けた取り組みが行われていますが、老朽化は深刻な問題であり、今後の保存・活用方法について検討が続けられています。しかし、登録有形文化財としての価値が認められたことで、その歴史と文化遺産としての未来への展望が開けたと言えるでしょう。摩耶観光ホテルは、神戸の街の歴史、そして日本のモダニズム建築の歴史を語る上で、重要な存在であり続けることでしょう。

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