擬宝珠家

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の世界に登場する擬宝珠家は、代々続く寿司店「超神田寿司」を営む架空の一族です。物語において、主人公である両津勘吉と深い関わりを持ち、以降の展開に大きな影響を与えました。一族の姓である「擬宝珠」は、装飾などに用いられる同名の飾りから名付けられたとされています。家紋は笹竜胆が用いられています。

超神田寿司

擬宝珠家が経営する「超神田寿司」は、東京都千代田区外神田に店を構える老舗です。確認されている最も古い記録から、享保2年（1717年）にはすでに開業していたことがうかがえます。この店では、創業当時からの伝統として薪で米を炊くなど、シャリへの強いこだわりを持っています。現在の形式的な店主は夜婁紫喰ですが、実質的な経営は彼の母であり大女将の夏春都が担っています。夏春都は保守的な一面を持ちつつも、チェーン展開や水上バイクでの配達といった革新的なアイデアを取り入れる柔軟さも兼ね備えています。また、従業員を大切にする姿勢も強く、手厚い待遇や海外旅行などを企画することもあります。

特筆すべきは、当時まだ4歳だった檸檬が味の責任者を務めている点です。彼女の卓越した味覚は「神の舌」と称され、その知識はベテランの板長をも凌ぐと言われています。両津が一時この店で働いていた際には、彼がチェーン店の初代店長を務め、様々な方法で仕入れを行うなど独自の運営を行いましたが、秋葉原店は両津の失敗によって閉店しています。また、ジョディーがここで寿司の修行を積み、技術を習得したことから、アメリカ海軍の空母カール・ヴィンソン内に支店が開設されるなど、国際的な広がりも見せています。

擬宝珠家の人々

擬宝珠 纏（ぎぼし まとい）：新葛飾署交通課に勤務する警察官。夏春都の孫にあたり、超神田寿司の長女です。両津勘吉とは互いの父方の祖父・祖母が兄妹という又従兄妹（はとこ）の関係です。初登場時は19歳でしたが、すぐに20歳になりました。気が強く、男勝りな口調と性格をしていますが、箏や茶道も嗜む一面もあります。運動神経が抜群で、特に野球やソフトボールでは速球を投げ、なぎなたの腕前も相当なものです。自動車の運転も得意で、安全運転競技会で全国優勝した経験もあります。両津とは、結婚寸前まで関係が進んだ時期もありましたが、両津の金銭欲を目の当たりにして破談となりました。しかし、その後も比較的良好な関係を保ち、時には両津のお目付け役を頼まれることもあります。
擬宝珠 夏春都（ぎぼし げぱると）：両津勘吉の父方の祖父の妹にあたる、大叔母です。「超神田寿司」の大女将であり、実質的な経営者。初登場時は99歳、その後105歳まで描かれました。夫の貴一廊とは大正時代に結婚し、太平洋戦争で夫を亡くしています。高齢ながらIT機器を使いこなし、商売の才覚は両津を上回ると評されることもあります。両津家の男性には厳しい見方をする傾向がありますが、両津の職人気質な面や仲間思いなところは評価しています。将来は纏と共に呉服店を営んでいる姿が描かれています。
擬宝珠 檸檬（ぎぼし れもん）：纏の妹で、幼稚園児です。両津と出会う前は無愛想でしたが、以降は両津を非常に慕い、家族のように思っています。大人顔負けの才能を持ち、「神の舌」と呼ばれる味覚、将棋の達人、書道や文才にも秀でています。一人称は「わし」で、大人に対してもはっきりとした口調で話します。両津のことを「勘吉」と呼び捨てにしますが、悪事を働いた際は諭すしっかり者です。将来は「超神田寿司」を改装した料亭の女将になっていることが描かれています。
擬宝珠 蜜柑（ぎぼし みかん）：纏と檸檬の妹。読者公募で名前が決められました。幼いため、まだ言葉を話す途中です。
擬宝珠 憂鬱（ぎぼし ゆううつ）：纏の兄。京都の料亭などで料理人として修業していました。酒に酔うと涙もろくなる一面があります。
擬宝珠 夜婁紫喰（ぎぼし よろしく）：夏春都の息子で、纏たちの父親。超神田寿司の店主ですが、実権は母に握られています。影が薄い存在として描かれています。
擬宝珠 桔梗（ぎぼし ききょう）：夜婁紫喰の妻で、纏たちの母親。見た目が若く、日本舞踊の師範でもあります。
擬宝珠 貴一廊（ぎぼし きいちろう）：夏春都の夫で故人。太平洋戦争で戦死しました。手先が器用で面倒見の良い人物だったと夏春都は語っています。
* 雪丸（ゆきまる）、ソレイユ（それいゆ）：擬宝珠家で飼われている犬たち。雪丸は捨て犬だったのを檸檬が拾い、ソレイユは雪丸の故郷の島から連れてこられました。

両津とのつながり

両津勘吉は、長年親戚に擬宝珠家がいることを知りませんでした。きっかけは、夏春都の孫である纏が葛飾署（現・新葛飾署）に配属されたことです。その後、両津が超神田寿司を訪れたことから接点が生まれ、ある事件での謹慎期間中に店でアルバイトとして働くことになります。このアルバイトを通じて親戚関係が判明し、両津は一時超神田寿司の社員となり、店に居候していた時期もありました。纏とは結婚騒動に発展しましたが、結局破談となっています。警察官の副業禁止規定に配慮し、アニメ版では繁忙期限定のアルバイトという設定に変更されています。

作中における位置付け

擬宝珠家の登場は、作者の秋本治が「両津に家族がいたら」と考えたこと、そして従来の派出所を舞台としたギャグ中心の展開から新たな要素を取り入れたいという意図から生まれました。特に、両津に対抗できる個性的なキャラクターとして纏、両津の父親的側面を引き出す檸檬と蜜柑、大原とは異なる母親的な怒り役として夏春都が配されました。これにより、物語の舞台が派出所だけでなく超神田寿司や擬宝珠家へと広がり、家族ドラマや人情話といったエピソードが増加しました。擬宝珠家が登場した頃は、特に纏や檸檬をメインとしたエピソードが多く描かれ、物語の中心を占めていました。その後、両津が超神田寿司を離れてから登場頻度はやや減少しましたが、現在でも重要なキャラクターとして物語に登場しめやかに登場し続けています。

擬宝珠家と超神田寿司は、『こち亀』の長きにわたる歴史において、物語に新しい風を吹き込み、キャラクターたちの関係性に深みを与えた重要な存在と言えるでしょう。

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