新小説

明治・大正期を彩った文芸雑誌『新小説』とその系譜

『新小説』は、明治から昭和初期にかけて刊行された、日本の近代文学史において重要な位置を占める文芸雑誌です。1889年（明治22年）1月の創刊から1927年（昭和2年）3月の終刊まで、二度にわたる刊行と、改題を経てその歴史を刻みました。

最初の幕開けと短い終止符

1889年、須藤南翠、森田思軒、饗庭篁村といった14名の文学愛好家たちが中心となり、『新小説』は誕生しました。しかし、この最初の刊行は1年半後の1890年（明治23年）6月に幕を閉じます。

幸田露伴を迎え、隆盛を極める第二期

それから6年後、1896年（明治29年）4月、文豪・幸田露伴の編集の下で『新小説』は再び創刊されました。この第二期は、雑誌の黄金時代とも言うべき隆盛を極め、多くの著名な作品を発表することとなります。

数々の名作を世に送り出す

第二期『新小説』には、日本の近代文学を代表する作家たちの作品が数多く掲載されました。

1900年（明治33年）：泉鏡花『高野聖』
1901年（明治34年）5月号：国木田独歩『帰去来』
1906年（明治39年）9月号：夏目漱石『草枕』
1907年（明治40年）8月号：田山花袋『蒲団』
1910年（明治43年）：泉鏡花『歌行燈』
1913年（大正2年）6月号：森鷗外訳『病院横町の殺人犯』（エドガー・アラン・ポー『モルグ街の殺人』の翻訳）
1914年（大正3年）2月号：森鴎外『堺事件』
1916年（大正5年）1月号：森鴎外『寒山拾得』
1917年（大正6年）：泉鏡花『天守物語』
1921年（大正10年）4月号：高群逸枝『日月の上に』（長篇詩）
1923年（大正12年）5月号：横光利一『日輪』
1925年（大正14年）9月号：『一人二役』
* 1926年（大正15年）7月号：江戸川乱歩『モノグラム』

これらの作品は、日本の近代文学の大きな流れを象徴するものであり、『新小説』がその発展に大きく貢献したことを示しています。

編集者たち

雑誌の隆盛を支えたのは、編集者たちの尽力も欠かせません。特に大正期には、田中純、鈴木三重吉、野村治輔といった著名な編集者が雑誌の舵取りを行いました。彼らの編集姿勢や選好が、掲載作品に反映され、雑誌の個性と魅力を形成したと考えられます。

『黒潮』への改題と終刊

1927年（昭和2年）1月、『新小説』は『黒潮』と改題されました。しかし、この改題は短命に終わり、同年3月に第3号をもって終刊を迎えます。

『新小説』の遺産

『新小説』は、多くの名作を生み出し、日本の近代文学の発展に多大なる影響を与えました。その歴史と業績は、今日まで多くの研究者や文学愛好家によって高く評価されています。現代においても、復刻版や索引などが出版されており、その重要性が再確認されています。また、オンラインでも目次や執筆者索引へのアクセスが可能となっています。これらの資料を通して、明治・大正期の文学の息吹を今に伝える『新小説』の価値は、今後も色褪せることはないでしょう。

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