映像の世紀

『映像の世紀』は、日本の公共放送であるNHKが企画・制作し、1995年から1996年にかけて放送された全11集からなるドキュメンタリーシリーズです。

この番組は、世界30カ国以上のアーカイブに眠っていた膨大な記録映像を収集し、それらを基に激動の20世紀を描き出しました。当事者自身のインタビューや再現シーンを排し、「記録された映像」と、回想録や証言の朗読（青二プロダクションが担当）のみで構成されるという独自の手法が特徴です。ナレーションは当時のNHKアナウンサー、山根基世が担当し、その抑制された語り口が映像の力強さを引き立てました。また、音楽は加古隆が手掛け、特にメインテーマ曲「パリは燃えているか」は高い評価を受け、番組の象徴となっています。

番組の制作は、1995年がNHK放送開始70周年、第二次世界大戦終結50周年、そしてリュミエール兄弟による世界初の実写映画公開から100周年にあたるという複数の節目が重なったことから企画されました。NHKは5年にも及ぶ準備期間を経て、アメリカのABCテレビと国際共同取材体制を組み、世界各地で歴史的な映像資料を収集しました。「映像がどのように20世紀を記録してきたか」という明確なコンセプトのもと制作された本作は、放送当時大きな反響を呼び、『戦後50年・その時日本は』と並び称される、日本における記念碑的なアーカイブ番組となりました。ただし、放送当時の歴史的知見に基づいているため、例えば1921年のタルサ人種虐殺に関する記述など、現在の歴史観とは異なる表現が含まれている点も指摘されています。

放送終了後も、『映像の世紀』は様々なメディアで展開されました。1996年にはCD-ROMやVHSソフトが発売され、特にVHSは全22巻として、本編が前後編に再編集されて収録されました。DVD化は2000年に始まり、その後別巻ディスクを含むBOXセットなどもリリースされ、長期にわたり家庭で視聴できる商品が供給されました。

放送から約20年を経た2015年には、続編『新・映像の世紀』の制作にあわせ、オリジナル版を現代の技術で高画質・高音質化した『デジタルリマスター版 映像の世紀』が制作されました。このバージョンでは、単に映像を修復するだけでなく、一部のシーンやナレーションの見直し、さらにはテーマ音楽を含む使用BGMの差し替えが行われています。映像自体はオリジナルの4:3に近い形を維持しつつも、字幕テロップは16:9の画面に合わせて刷新されました。このデジタルリマスター版は、その後の再放送や、NHKオンデマンドでの配信においてスタンダードとなっています。さらに、2021年以降には、デジタルリマスター版を基にした4Kリストア版や、AI技術を用いたカラーライズ版が登場し、現代の歴史考証を加味した一部ナレーションの変更などが行われ、その変更点や残酷な映像に関する注記が放送冒頭に表示されるようになりました。

また、本作は国内外で繰り返し再放送されており、総合テレビだけでなく、ヒストリーチャンネルやチャンネル銀河などでも放送されました。2016年からは、再構成された英語版がNHKワールドTVで放送されており、内容によっては年齢制限を示す「18+」のテロップが表示されています。

番組の音楽、特に加古隆作曲のメインテーマ「パリは燃えているか」は、サウンドトラック盤が発売されただけでなく、他のコンピレーションCDに収録されたり、スタジオジブリのドキュメンタリー作品に使用されたりと、番組を超えて広く親しまれています。一部の楽曲は、『新・映像の世紀』でも引き続き使用されています。

『映像の世紀』の成功は、構成、音楽、語り、そして世界中から映像を集めた制作スタッフの弛まぬ努力によって支えられています。このシリーズは、その後のNHKにおける大型歴史ドキュメンタリーの方向性に大きな影響を与え、『新・映像の世紀』、『映像の世紀プレミアム』、『映像の世紀 バタフライエフェクト』といった関連・派生作品を生み出し、映像を通じて20世紀以降の現代史を問い続ける試みは現在も続いています。

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