普通乗車券

普通乗車券（ふつうじょうしゃけん）

普通乗車券とは、鉄道や高速バスをはじめとする陸上交通機関において発行される乗車券の基本的な区分の一つです。一般的に、定められた運賃率に基づいて算出された正規の金額で利用できる乗車券を指します。

交通理論における位置づけ

交通分野の理論においては、この「普通乗車券」という言葉が複数の文脈で使われることがあります。

一つには、標準的な運賃で発行される乗車券という意味で用いられます。この対義語としては、特定の条件下で割引が適用される「割引乗車券」が挙げられます。

もう一つは、乗車する区間が単一の交通事業者の路線内のみに限定される「自線乗車券」という意味合いです。この場合の対義語は、複数の事業者間で乗り継ぎが可能な「連帯乗車券」や「通し乗車券」となります。

なお、すべての交通事業者が「普通乗車券」という名称の乗車券を発行しているわけではありません。また、「普通乗車券」として発売されている場合でも、その種類や内容は事業者によって異なります。例えば、JRグループでは片道、往復、連続といった種類がありますが、九州の高速バスネットワークにおける基山トランジットでは、片道券、往復券に加えて回数券も普通乗車券として扱われる場合があります。

JRグループにおける普通乗車券

JRグループにおいて、原則として普通乗車券は以下の3種類を指します。

片道乗車券

連続した一連の区間を、目的地まで一度だけ乗車するために発行される乗車券です。比較的短い区間から非常に長い経路まで発行が可能ですが、いくつかの経路上の制限があります。

主に、乗車中に同じ区間を二度通るような折り返し乗車（復乗）が禁止されています。また、環状線を利用する場合は、一周を超えて乗車することは原則として認められていません（一部例外あり）。

複雑な経路の場合、新幹線と在来線が並行する区間が含まれる際は、一周となる手前の駅で打ち切って運賃を計算することがあります。特定の都心部を発着する場合に適用される「市内特例」では、中心駅からのキロ数で計算されるため、重複する区間でも乗車が可能な場合があります。ただし、特定の複雑な経路（いわゆる「6の字」「9の字」など、始発駅または終着駅が特定の駅に固定される経路）では、この限りではありません。

片道乗車券には、その記載方法や機能によっていくつかの形式があります。

一般式片道乗車券: 発駅と着駅の名前が明記された形式です。補充券やマルス端末で発行されるものがこれにあたります。一部の鉄道会社では、ワンマン運転時の運賃確認を効率化するために、この形式を採用しています。
相互式片道乗車券: 二つの駅名が記載されており、どちらの駅から乗車しても有効となる乗車券です。
地図式片道乗車券: 路線図が印刷されており、その図示された範囲内の任意の駅で乗降できる乗車券です。
金額式片道乗車券: 発駅から、券面に記載された金額で到達できる任意の駅まで利用できる乗車券です。主に近距離の自動券売機で発行される、最も一般的な形式です。
チケットフリー式: 金額のみが記載され、購入した駅に関係なく指定された路線のどの駅からも利用開始でき、入場駅から金額に応じた区間を利用できる乗車券です。仙台市交通局などが導入しています。

往復乗車券

行きと帰りで全く同じ区間と経路をそれぞれ一回ずつ乗車する場合に発行される乗車券です。ただし、行きの経路が特定の複雑な形状（例：6の字）で片道乗車券としては成立しても、帰りが認められない経路（例：9の字）になる場合は、往復乗車券としての発行はできません。

往復乗車券の有効期間は、一般的に同じ区間・経路の片道乗車券の有効期間の二倍とされます。ただし、JR線の新下関～博多間を含む場合など、個別のルールが適用される事業者や区間も存在します。

JR線においては、片道の営業キロが601キロを超える場合に限り、「往復割引乗車券」として、行きと帰りの運賃がそれぞれ1割引（10円未満切り捨て）で計算されていました。これにより、目的地より遠い駅まで購入した方が割安になるケースも見られました。

【重要】JRグループは、2024年12月2日に、2026年3月末をもって往復乗車券の発売を終了し、同時に往復割引も廃止することを発表しています。

連続乗車券

片道乗車券や往復乗車券の発行条件を満たさないものの、連続した二つの区間をそれぞれ一度ずつ乗車する場合に発行される乗車券です。以下のようなケースで利用されます。

行きと帰りで利用する経路の一部が異なる場合（完全に同じ場合は往復乗車券、完全に異なる場合は環状線一周の片道乗車券となるケースがあります）。
目的地への途中、別の路線の駅などに立ち寄ってから、再び元の方面へ向かう場合。
環状線の規定により一周を超える片道乗車券が発行できない区間で、実質的に一周を超える経路をたどる場合。ただし、新幹線と在来線の別線区間を含む一周乗車券を作成する際は、一周手前の駅で打ち切り、連続乗車券として発行するケースがあります。
連絡運輸の範囲外であるなど、技術的に一枚の乗車券で発行できない二つの区間を続けて乗車する場合。

運賃の計算上は、それぞれの区間を個別に片道乗車券として購入した場合と同額になります。しかし、一枚の券として発行されることで、乗車券の有効期間が合算される点や、払い戻し手数料、学生割引利用時の証明書などが一枚分で済むといった利点があります。かつては連続乗車券を往復乗車券に変更することはできませんでしたが、現在は変更が可能になっています。

【重要】JRグループは、2024年12月2日に、2026年3月末をもって連続乗車券の発売を終了することを発表しています。

乗車券の有効期間

JR線の普通乗車券の有効期間は、営業キロによって定められています。片道乗車券の場合、営業キロが100キロメートル以下、または大都市近郊区間内のみを利用する乗車券は、発売された当日限り有効です。101キロメートル以上の乗車券は2日間有効となり、以降、200キロメートル増すごとに有効期間が1日ずつ加算されます（例：201～400kmは3日間）。端数のキロ数は1キロメートルに切り上げて計算されます。

往復乗車券の有効期間は、原則として同一区間の片道乗車券の有効期間の二倍です（特定の区間を除く）。連続乗車券の有効期間は、それぞれの区間の片道乗車券として計算される有効期間を合算した日数となります。これにより、最初の区間を長い期間利用し、その後に次の区間を利用することも可能です。

有効期間内に目的地の駅に到着しなかった場合でも、途中下車をしない限り、券面に表示された最終駅までそのまま利用できる「継続乗車」の制度があります。

途中下車

普通乗車券の有効期間内であれば、基本的に後戻りしない限り、発着区間内の途中駅で一度改札を出て再び乗車する「途中下車」を何度でも行うことができます。

ただし、以下の条件に該当する普通乗車券では、途中下車ができません。

営業キロが片道100キロメートル以下の乗車券。
大都市近郊区間内のみで完結する乗車券。
特定都区市内または東京山手線内を発着する乗車券を使用する場合、その指定されたエリア内の駅においては途中下車ができません。

購入と払い戻し

普通乗車券の発売日は、原則として乗車する当日です。ただし、指定券と同時に購入する場合や、旅行会社などで購入する場合は、乗車日の1ヶ月前から購入が可能で、どこの駅から有効となる乗車券でも購入できます。無人駅から乗車する場合の乗車券は、通常、その無人駅に最も近い有人駅で購入することになります。

JR線の普通乗車券は、原則として手数料220円を支払うことで払い戻しが可能です。払い戻しができるのは、主に以下のケースです。

まだ使用を開始しておらず、有効期間内である場合。
事前に購入した乗車券で、有効期間が始まる前である場合。
使用を開始しているが、有効期間内であり、かつ使用しない区間がその券片だけで営業キロ100キロメートルを超えている場合。

特別企画乗車券との関係

一部の割引乗車券やフリーきっぷなど、特定の企画乗車券の中には、「休日おでかけパス」や「一日散歩きっぷ」のように、券面に「普通乗車券」と記載されているものも存在します。

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