曹

曹（そう）

漢字の「曹」は、本来は部屋や区画を指す言葉でした。これが転用され、中国をはじめとする漢字文化圏において、政府の機関や役職の名称として広く用いられるようになった経緯があります。特に近代日本では、軍隊の階級呼称として定着しており、現在も自衛隊の階級区分の一つとしてその名が残されています。本項目では、この「曹」が歴史的にどのように位置づけられ、現代に至るまでどのような意味合いで使われているのかを詳述します。

官制における「曹」

中国の律令官制においては、「曹」は概ね六部の下位に位置する部署である所司を指しました。これは、六部が国家の中枢的な行政機関であるのに対し、「曹」はそれらを補佐し、より具体的な実務を担う役割を負っていたことを示しています。周辺諸王朝では、自国の行政機関を中国の六部に対応するものとしつつも、謙譲の意を込めて「曹」と呼ぶ例も見られました。

日本の律令官制においても、「曹」は主に軍事関連の官職に用いられています。例えば、近衛府においては将曹、鎮守府においては軍曹といった役職が存在しました。また、近衛大将を「曹司」と呼ぶ慣習もありました。これらの官職名は、後の日本の近代軍制における階級呼称へと引き継がれることになります。将・佐・尉・曹という階級の順序は、衛府の官制における序列（将・佐・尉・曹）になぞらえて定められたものと考えられています。

李氏朝鮮における六曹

李氏朝鮮においては、中国の六部に相当する中央行政機関が「六曹」と呼ばれました。六曹はそれぞれが独立した強力な権限を持ち、その所掌事務に応じて司法権も付帯していた点が特徴です。各曹の長官は判書と呼ばれ、その下に参判、参議、正郎、佐郎といった官僚が配置されていました。

吏曹：官制の運営と人事全般を担当しました。科挙の合格者の中から優秀な人材を選抜し、中央や地方の官職への任命、人事管理、罷免といった重要な任務を担っていましたが、高位の官職や八道の知事といった要職の任免は、閣議を経て国王が最終決定権を持っていました。
戸曹：国家の財政を司る機関でした。貨幣の鋳造、人口調査、各地方への租税や貢納の割り当て、出納の監督、帳簿の点検、不正な徴税の禁止、飢饉時の備蓄対策など、財政に関する広範な業務を管轄しました。
礼曹：王室に関する儀礼や国家の祭祀、外交などを担当しました。科挙の施行、公的な場における礼儀作法の監督、儒教の民衆への教化などもその任務に含まれました。
兵曹：国家の軍事を統括する機関でした。武官の選任、徴兵、軍需品の調達と管理、王宮の警護、儀仗、歩哨といった軍事関連の多岐にわたる業務を担いました。
刑曹：司法および刑事行政を管轄しました。刑法の遵守を監督し、裁判所の機能や運営を管理する役割を果たしました。
工曹：公共事業や社会インフラの整備を担当しました。宮殿や公共建造物、交通路の建設や維持管理に加え、商工業一般に関する業務も所管しました。

自衛隊における階級としての「曹」

現代の日本において「曹」は、自衛官の階級区分の一つとして用いられています。自衛隊の階級は上から将、佐、尉、曹、士という序列になっており、「曹」は准尉の下、士の上に位置づけられます。これは旧日本軍などにおける下士官に相当する階級であり、警察における巡査部長に相当すると説明されることもあります。

自衛隊の「曹」は、曹長、一等曹、二等曹、三等曹の四つの階級に区分されています。これらの曹を養成するための主要な課程としては、中学生を対象とする高等工科学校生徒や、高校卒業程度等を対象とする一般曹候補生といった制度があります（過去には自衛隊生徒や曹候補士などの制度も存在しましたが、現在は廃止されています）。

自衛隊は陸上、海上、航空の三つの組織からなり、それぞれの組織において「曹」の呼称が異なります。陸上自衛隊では「陸曹」と呼ばれ、陸曹長、一等陸曹、二等陸曹、三等陸曹があります。海上自衛隊では「海曹」と呼ばれ、海曹長、一等海曹、二等海曹、三等海曹があります。航空自衛隊では「空曹」と呼ばれ、空曹長、一等空曹、二等空曹、三等空曹があります。

このように、「曹」は日本の官制史において、古くは部署名や役職名として、近代以降は軍事組織の重要な階級として、その名称が受け継がれています。

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