木の上の軍隊

舞台『木の上の軍隊』：沖縄のガジュマルの木の上で繰り広げられる、終戦を知らずに続いた孤独な戦争

2013年、Bunkamuraシアターコクーンで初演された舞台『木の上の軍隊』は、井上ひさしの原案、蓬莱竜太による脚本、栗山民也演出という豪華な布陣で話題を呼びました。主演は藤原竜也。この作品は、沖縄県伊江島を舞台に、終戦を知らぬまま2年間、ガジュマルの木の上で生活した日本兵2人の実話を基にした、三人芝居です。

井上ひさしからのバトン、そして蓬莱竜太の挑戦

この舞台の始まりは、井上ひさしが新聞記事で知った、実話に基づく物語でした。1985年頃より沖縄戦を題材とした芝居を構想し、1990年には上演に向けて準備を進めていましたが、残念ながら完成に至らず、幻の作品となっていました。井上ひさしの死後、その構想を引き継いだのは、栗山民也と蓬莱竜太でした。蓬莱は、膨大な資料を読み込み、沖縄を訪れ、実際に日本兵が隠れていたガジュマルの木に登るなど、徹底した取材を行いました。

単なる戦争劇ではなく、沖縄出身の新兵と本土出身の上官という対照的な2人の兵士の、すれ違う価値観や葛藤を丁寧に描き出し、沖縄戦を現代社会へと繋がる問題として提示しています。井上ひさしの遺志を汲み取りつつ、蓬莱竜太は独自の解釈を加え、新たな命を吹き込んだのです。

舞台の魅力：緊迫感と静寂が織りなす人間ドラマ

舞台は、ガジュマルの木が中心に据えられ、限られた空間での会話劇が中心となっています。大きな動作が制限されることで、俳優たちの表情や言葉の重みに、より一層の緊張感が増します。「語る女」の語りによって物語が展開し、観る者の心を深く揺さぶります。2016年、2019年には再演され、それぞれ新たな演出が加えられ、より洗練された作品へと進化を遂げました。

物語：終戦を知らぬまま続く、木の上の孤独な日々

激しい戦闘の中で生き残った、ベテラン兵士である上官と、若い志願兵である新兵。彼らは、ガジュマルの木の上で身を潜めます。木の下には仲間の死体が横たわり、遠くには敵の陣地が広がっている…。連絡手段もなく、援軍を待つ日々は2年にも及びました。食料が尽き、心労が重なる中、2人の間には次第に亀裂が生じていきます。

キャストとスタッフ

初演では、藤原竜也が新兵役を、山西惇が上官役を、片平なぎさが語る女役を務めました。再演では、松下洸平や普天間かおりなど、実力派俳優たちが参加しました。演出は、井上ひさし作品を数多く手掛けた栗山民也が担当。音楽、美術、照明など、舞台の細部に至るまで、高いクオリティが保たれています。

映画化

2025年には、映画版の公開が予定されています。監督は沖縄県出身の平一紘、主演は堤真一と山田裕貴。舞台版とは異なる視点で描かれる映画版も、多くの人の注目を集めています。

まとめ

『木の上の軍隊』は、沖縄戦という暗い歴史を、単に悲劇として描くのではなく、人間ドラマとして、そして現代社会への問いかけとして提示する、力強い作品です。舞台版、映画版を通じて、多くの人にこの物語が届けられ、戦争の悲惨さと平和の尊さを改めて考える機会となることを期待します。 舞台版、映画版ともに、忘れかけていた記憶を呼び覚ます、忘れられない体験となるでしょう。

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