機関委任事務

機関委任事務とは

機関委任事務とは、地方公共団体の長（都道府県知事や市町村長）が、法律に基づいて国から委任を受け、「国の機関」として処理していた事務のことです。この制度は、1999年の地方分権一括法の制定によって廃止されました。

機関委任事務の概要

機関委任事務として扱われる事務は、法律上は委任した側の「国の事務」とされ、「地方公共団体の事務」とはみなされませんでした。そのため、これらの事務に関しては地方公共団体の条例制定権が及ばず、地方議会の関与も制限されていました。

国は、機関委任事務について包括的な指揮監督権を持ち、これを制度的に担保するものとして、職務執行命令訴訟が存在しました。国は、都道府県知事が機関委任事務の管理執行において違法や怠慢があった場合、職務執行命令訴訟を経て、主務大臣による代執行を行うことができ、最終的には内閣総理大臣による知事の罷免も可能でした。ただし、実際にこの制度に基づいて知事が罷免された例はありませんでした。公選で選ばれた知事の身分を奪うことは適切ではないとの考えから、知事罷免制度は1991年の地方自治法改正により廃止されました。

機関委任事務の歴史的背景

明治憲法下では、機関委任事務は市町村の執行機関のみに適用されていましたが、戦後の改革により都道府県が「完全自治体化」される中で、地方官庁としての知事の権限は、公選知事や教育委員会などへの機関委任事務として再定義されました。高度経済成長期には、自治体の公害規制関連の法律が機関委任事務であったため、条例を制定することができませんでした。しかし、公害被害が深刻な一部の自治体は、法律を上回る条例を制定し、公害対策に乗り出しました。これは自治体政策法務の先駆けとも言える出来事でした。その後、福祉国家としての日本の発展と共に、機関委任事務の範囲は拡大を続け、特に都道府県の事務のかなりの部分を占めるようになりました。

機関委任事務の問題点と廃止

地方公共団体の公選首長を国の下部機関と位置づけるこの制度は、地方自治を阻害するものとしてかねてから批判が強くありました。機関委任事務に関わる領域では、条例を制定することができないため、自治体は地域の課題を解決するために、法律の規制を上回る指導要綱を制定して対応していました。1999年の地方分権一括法による地方自治法などの改正により、機関委任事務は2000年4月に廃止されました。地方公共団体が処理する事務はすべて「地方公共団体の事務」となり、かつて機関委任事務とされていた事務の大部分は自治事務と法定受託事務に再編されました。一部の事務は国の直接執行とされるか、事務自体が廃止されました。

また、機関委任事務制度の下では、都道府県が国の機関として市町村に対する指導監督を行うことが多かったですが、機関委任事務制度の廃止により、都道府県と市町村は対等な関係として位置づけられるようになりました。

参照条文

• - 地方自治法（地方分権一括法による改正前）

- 普通地方公共団体の長が国の機関として処理する行政事務については、普通地方公共団体の長は、都道府県にあつては主務大臣、市町村にあつては都道府県知事及び主務大臣の指揮監督を受ける。（150条）
- 都道府県知事は、その管理に属する行政庁又は市町村長の権限に属する国又は当該都道府県の事務につき、その処分が成規に違反し、又は権限を犯すと認めるときは、その処分を取り消し、又は停止することができる。（151条1項）

• - 国家行政組織法（同）

- 各大臣は、主任の事務について、地方自治法（昭和二十二年法律第六十七号）第百五十条の規定により、地方公共団体の長のなす国の行政事務に関し、その長を指揮監督することができる。（15条1項）

関連事項

• - 団体委任事務
• - 地方分権推進委員会
• - 地方事務官
• - 沖縄代理署名訴訟

外部リンク

• - 『機関委任事務』 - コトバンク

もう一度検索