永田浩三

永田 浩三

永田 浩三（ながた こうぞう、1954年11月25日 - ）は、日本の社会学者、ジャーナリストであり、武蔵大学社会学部で教鞭を執る教授です。大阪府に生まれ、東北大学教育学部を卒業後、1977年にNHKに入局しました。

NHKでの活躍

NHKでは長年にわたり、主にドキュメンタリーや教養・情報番組の制作に携わり、数々の優れた作品を生み出してきました。ディレクターとして手掛けた作品には、『おじいちゃんハーモニカを吹いて』（芸術祭賞、放送文化基金賞）や「ぐるっと海道３万キロ」（アジア太平洋放送連合賞）などがあり、その独創性と質の高さは早くから評価されていました。プロデューサーとしては、「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」、「ETV2001」といった日本の主要な報道・教養番組の制作を統括し、ギャラクシー賞や農業ジャーナリスト賞など、部門を問わず多数の賞を受賞しています。

永田氏の制作姿勢には、自身の個人的な背景が深く影響を与えています。広島で原爆投下により被爆した母親を持つ被爆二世として、戦争の記憶や原子力問題に対する強い関心を持ち続け、これらのテーマを扱った番組を数多く制作しました。また、テレビというメディアに携わる人々の記録を残すことにも熱心で、故・工藤敏樹氏や新沼隆朗氏といったテレビマンたちの業績をまとめ、語り継ぐ活動を行いました。さらに、NHKの次世代を担う若手ディレクターのために番組制作マニュアルを編集するなど、組織内の人材育成にも尽力しました。

ETV番組改変事件を経験

永田氏のNHKにおけるキャリアは、2001年に起きたETV番組改変問題によって大きな転換点を迎えます。彼は当時、『ETV2001』のシリーズ「戦争をどう裁くか」の統括プロデューサーでしたが、番組内容に対する政治的な圧力や介入が問題化し、その後の裁判では原告側の証言台に立ちました。この経験を経て、彼は長年深く関わってきた番組制作の第一線から離れることになります。この一件はジャーナリズム界で広く議論され、ジャーナリストの魚住昭氏などは永田氏らの姿勢を評価しています。

番組改変問題の渦中にありながらも、2002年には国谷裕子氏らとともに「クローズアップ現代」全体の成果として菊池寛賞を共同受賞しています。

NHK退職後の活動

2009年にNHKを早期退職した後、永田氏は教育の場へと移り、武蔵大学社会学部の教授に就任しました。大学ではメディア社会学を専門とし、学生たちの教育・指導にあたる傍ら、ジャーナリストとしての視点からの発信や、市民社会との連携を重視した多様な活動を展開しています。

特に注目されるのは、精神保健福祉士の資格を取得し、自殺対策や認知症高齢者が地域で安心して暮らせる社会の実現といった精神保健福祉分野の課題にも積極的に取り組んでいる点です。また、自身の居住地である練馬区を拠点に、市民や学生と共に映像作品を制作し、地域のケーブルテレビや映像祭などで発表するなど、草の根のメディア活動を続けています。

東日本大震災発生後は、被災地への支援や、困難な状況下で情報を発信する市民メディアとの交流を深め、公開講座や書籍を通じてその経験や知見を共有しています。2013年には、在日コリアンへの差別に立ち向かう大阪朝鮮高級学校ラグビー部を追ったドキュメンタリー映画『60万回のトライ』を、岡本有佳氏とともにプロデュースし、社会的関心を集めました。

永田氏は、歴史認識や表現の自由といった問題にも積極的に関わっています。例えば、中国に残された元日本軍「慰安婦」を撮影した写真家・安世鴻氏の写真展を市民活動家と協力して開催したり、原爆を描いた漫画『はだしのゲン』の学校図書館からの追放に反対する運動の先頭に立ったりしています。また、2015年には『表現の不自由展』を共同代表として企画・実行し、大きな反響を呼びました。ISILに拘束され殺害されたジャーナリスト後藤健二氏とはNHK時代の旧知の仲であり、彼の死に際して追悼のコメントを発表しています。さらに、在日コリアンが日本社会で直面する問題にも継続的に光を当て、関連番組の制作や、人権擁護のための声明への賛同など、社会的な弱者やマイノリティの声に耳を傾け、発信する活動を続けています。

これらの活動は、『NHK、鉄の沈黙はだれのために』や、ETV番組改変問題の経緯を詳述した『NHKと政治権力』といった著書にもまとめられており、彼のジャーナリズム倫理や社会に対する批評精神が示されています。

永田浩三氏は、大学での教育活動に加え、活発な執筆活動、講演、そして市民社会の一員としての実践的な活動を通じて、現代社会の課題に多角的に向き合い、その解決に向けた提言と行動を継続しています。

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