注射器

注射器：歴史、種類、そして未来

注射器は、液体や気体を注入・吸引するための医療機器であり、現代医療に欠かせない存在です。本稿では、注射器の構造、歴史、種類、用途、そして安全性について解説します。

注射器の構造

一般的な注射器は、注射筒（シリンジ）と注射桿（プランジャ）、そして注射針から構成されます。注射筒はガラス製や樹脂製（プラスチック製）があり、樹脂製の場合は気密性を保つため、プランジャの先端にゴム製のガスケットが取り付けられています。シリコーンオイルが潤滑剤として使用される場合もあります。注射筒には、プランジャが中央にあるものと端にあるもの、そして針の接続方法が異なるルアーチップ式、ルアーロック式、カテーテルチップ型など様々な種類があります。針が予め取り付けられている一体型も存在します。近年では、針刺し事故防止機構付き注射器なども開発されています。

注射器の歴史

皮下注射器の開発は1850年から1910年にかけて、フランス、イギリス、ドイツを中心に盛んに行われました。初期の注射器は、浣腸器を参考に改良されたものが多く、現代の注射器とは異なる構造を持っていました。1852年にはフランスの整形外科医シャルル・プラバが銀製の注射器を製作しましたが、これは現代の皮下注射器の祖型とはみなされていません。その後、プラヴァーズ式と呼ばれる注射器が開発され、広く使用されるようになりました。

スコットランドのアレクサンダー・ウッドが1853年に神経痛患者に鎮痛剤を注射したのが、皮下注射の最初の記録とされています。1860年代には、ルエルが様々なタイプの注射器を考案し、フランスやドイツを中心に普及しました。1952年にはアメリカで使い捨て注射器が開発され、医療現場に大きな変化をもたらしました。日本では、1970年代に学校での予防接種でジェットインジェクターが使用されましたが、神経損傷などの問題から使用が中止されました。

注射器の種類と用途

医療用注射器は、円筒状の注射筒とプランジャからなり、ガラス製とプラスチック製があります。ガラス製は滅菌して繰り返し使用しますが、プラスチック製は使い捨てです。滅菌方法は、プラスチック製の場合はエチレンオキサイドガス滅菌や放射線滅菌が用いられます。

医療現場では、予防接種などに無針注射器（ジェットインジェクター）が使用されることもありましたが、安全性に関する懸念から使用は制限されています。近年では、無針ジェット式注射器の開発も進み、従来の注射器と同等の効果と安全性が確認されています。

自己注射用の注射器も存在し、糖尿病患者がインスリン注射に使用したり、アナフィラキシーショック治療用のエピペンなどがその例です。インスリン注射器の中には、針の先端に薬剤を塗布し、押し当てることで注射するものもあります。また、針が内蔵され、ボタン操作で針が射出されるタイプもあります。

軍隊の救急医療キットにも、一回投与分の薬剤が入った注射器が備えられています。片手で操作できるよう、簡素化された構造が採用されています。

注射針はステンレス製が一般的ですが、近年では痛みの少ないプラスチック製も開発されています。医療現場では、感染症対策のため、使い捨て注射器が広く利用されています。

実験用注射器

実験室では、液体や気体の注入、体積測定、簡単な加圧などに注射器が使用されます。有機化学実験では、無水条件や不活性ガス雰囲気下での実験にガラス製の注射器が使用されます。

注射針の規格

医療用の注射針は、2007年4月1日からカラーコードが統一されました。これは、安全性の向上と医療ミス防止を目的としています。

無針注射器

無針注射器は、針を使用しない注射器です。1970年代にはBCGなどの予防接種に使用されましたが、神経損傷のリスクなどから使用されなくなりました。その後、技術の進歩により、安全性の高い無針注射器が開発されています。

まとめ

注射器は、医療や実験において重要な役割を果たす機器です。本稿で解説したように、注射器は長年にわたる技術革新を経て、安全で使いやすいものへと進化を続けています。今後も、さらなる安全性と利便性の向上を目指した開発が期待されます。

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