淋しがりや

トムとジェリー：『淋しがりや』の物語

1943年公開の『トムとジェリー』短編アニメーション、『淋しがりや』(原題:The Lonesome Mouse)は、トムとジェリーの複雑な関係性を浮き彫りにする、心温まる、そしてユーモラスな作品です。

物語は、ジェリーが昼寝中のトムの頭上に花瓶を落とすいたずらから始まります。このいたずらが、お手伝いさんの目に留まり、トムは家の外に追い出されてしまうという事態に発展します。

トム不在の生活に最初は喜びを感じていたジェリーですが、夜になり、月明かりの差し込む窓辺で、トムの不在による寂しさを募らせていきます。孤独に耐えかねたジェリーは、ある作戦を思いつきます。それは、トムを家の中に戻すという、意外な計画です。

ジェリーは、外で一人寂しくしているトムを見つけます。仕返しに襲いかかろうとするトムを制止し、ジェリーはトムに「家の中に戻りたい？」とささやきます。

ジェリーの提案は、お手伝いさんの前で実行されることになります。そして、ジェリーが考案した作戦とは、トムがジェリーを捕まえるという、大胆な芝居でした。

トムとジェリーは、見事に演技を演じ切ります。ジェリーは、トムに捕まるフリをして、お手伝いさんに「ネズミを退治した」と思わせることに成功します。

お手伝いさんは、トムの「活躍」を褒め称え、ご褒美としてパイをトムに与えます。しかし、トムは、そのパイを独り占めしようとします。そこにジェリーが現れ、パイを分けてもらおうとしますが、トムはそれを拒否し、ジェリーを突き飛ばしてしまいます。

ジェリーの怒りは頂点に達します。トムの尻を蹴り上げ、トムの顔をパイの中に押し込むという、痛快な仕返しを行います。「誰のおかげで戻れたと思ってるんだ、裏切り者！恩知らず！」と、ジェリーはトムを罵りながら、その場を去っていきます。

この作品では、トムとジェリーは、普段の人語を話すシーンが少ないにもかかわらず、驚くほど流暢に会話を行います。それは、彼らの感情表現をより豊かに、そして明確に描き出すための演出といえるでしょう。

トムは、ジェリーのいたずらによって家から追い出されますが、その後、ジェリーの策略によって家に戻ることができ、ご褒美のパイをもらいます。しかし、そのパイを独り占めしようとしたために、ジェリーに復讐されてしまいます。

一方、ジェリーは、トムがいなくなった寂しさから、トムを家に戻す作戦を立案し、実行します。そして、作戦成功後、トムのパイ独占に激怒し、トムを痛めつけます。

この物語は、トムとジェリーのいたずらと友情、そして裏切りといった複雑な感情が入り混じった、見ごたえのある内容となっています。特に、ジェリーがトムのベッドに描かれたトムの顔に落書きをし、唾を吐くシーンは、一部テレビ放送版ではカットされていますが、作品全体のテーマを考える上で重要な要素となっています。

『淋しがりや』は、トムとジェリーの定番の追いかけっこだけでなく、彼らの感情の機微や、時に複雑な人間関係までもが表現された、見逃せない作品です。一見すると単純ないたずら合戦に見えるかもしれませんが、その奥には、友情と裏切り、そして寂しさといった、人間の感情が複雑に絡み合っています。

もう一度検索