清浄心院

清浄心院（しょうじょうしんいん）は、和歌山県伊都郡高野町の高野山に位置する仏教寺院で、宿泊施設（宿坊）も兼ねています。高野山真言宗の別格本山としての格式を持ち、本尊として廿日大師を祀っています。

由緒と歴史

寺院の創建は古く、寺伝によれば、弘法大師空海によって天長年間（824年 - 834年）に開かれたとされています。長い歴史の中で、かつては平宗盛による再建が行われた時期もありました。しかし、万延元年（1860年）7月23日に発生した火災により伽藍は焼失し、現在の建物はそれ以降に再建されたものとなります。

本尊：廿日大師

清浄心院の本尊である廿日大師（はつかだいし）は、弘法大師空海の姿を写した木像です。この像の大きな特徴は、その背面に「微雲管」という三文字が記されている点にあります。伝承によれば、この木像は承和2年、空海が入定される前日である3月20日に、弘法大師自身が彫刻し、背にこの文字を書き入れたものと伝えられています。この故事にちなみ、後世の人々によって「廿日大師」と呼ばれるようになり、深く信仰されています。

所蔵文化財

当院には歴史的に貴重な文化財も伝来しています。具体的には、江戸幕府を開いた徳川家康が記したとされる書状が二通あります。これらは朝鮮出兵の際に捕虜となった李氏朝鮮王子の書状に関連するものとされています。また、平安時代末期の皇后である美福門院が筆写したとされる「紺紙金泥四分羯磨」も所蔵されており、仏教儀礼に関する貴重な資料となっています。

近年の住職継承問題

清浄心院は近年、住職の継承を巡る複雑な問題を抱えていました。平成15年（2003年）4月、当時の住職が後継者を定める手続きを終えないまま死去したことが問題の発端となりました。通常、高野山真言宗が定める住職資格を持つ寺院の徒弟が後任となる予定であり、故住職の親族らもこの徒弟を推していました。

しかし、後継者選任の過程で、長老僧侶の一人が「前住職の急逝による緊急事態」を理由に挙げ、清浄心院の法類寺院（関連寺院）の住職が兼務する形で就任することが望ましいとの意見を表明しました。この意見を受けて、清浄心院の徒弟側は、兼務住職の任期を一年間に限定するという条件付きで、この案を受け入れたとされます。ただし、この任期に関する合意は口頭によるものであり、兼務住職となる人物と徒弟の間で文書化されていませんでした。

結果として、高野山内の法類寺院の住職が清浄心院の住職に兼務という形で選任されました。ところが、この兼務住職は口頭で合意されたとされる一年間の任期が過ぎても退任しませんでした。これにより、兼務住職と清浄心院の徒弟との間で、住職の地位などを巡る法廷闘争へと発展しました。

裁判が進む中で和解に向けた交渉も行われましたが、この過程で関係者から漏れた情報として、徒弟側が住職の地位を得るためには、兼務住職側に対し「億単位」とされる多額の金銭を支払うことが要求されたといった話が囁かれました。さらに、裁判の係争中にもかかわらず、兼務住職が清浄心院の住職として、寺院で働く僧侶や従業員に対して解雇を示唆するような人事権を行使しようとする動きも見られました。

事態を打開するため、清浄心院の徒弟は弁護士を代理人として立て、この住職継承問題を当時の高野山真言宗管長である資延敏雄氏宛ての請願書にまとめ提出しました。これにより、「清浄心院の住職継承問題」は高野山全体に知れ渡るようになり、山内ではこの問題に関して様々な憶測や噂が飛び交うようになりました。その渦中で、清浄心院の徒弟や故住職の親族を誹謗中傷する内容の「差出人不明の怪文書」が、高野山内の複数の寺院に投函されるという事件まで発生しました。

長期間にわたる問題は、平成25年（2013年）に入り転機を迎えます。同年4月、係争相手であった当該の兼務住職が清浄心院の住職を退任しました。後任として、別の高野山内の寺院住職が兼務住職として就任しましたが、この人物も後に退任しました。最終的に、高野山真言宗が定める住職資格を持つ別の僧侶が、清浄心院の住職として正式に就任するに至りました。

また、平成25年（2013年）7月には、和歌山地方裁判所から清浄心院の建物明け渡しを命じる決定が下され、係争の当事者であった清浄心院の徒弟がこの命令に従う形で問題の終結に向かいました。この一連の騒動は、清浄心院のみならず、高野山全体に大きな影響を与えた出来事として記憶されています。

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