源宗于

源宗于：歌と官職の狭間で生きた平安貴族

源宗于（みなもと の むねゆき）は、平安時代前期から中期にかけて活躍した貴族であり、優れた歌人としても知られています。光孝天皇の孫にあたる皇族出身で、華麗な経歴と数々の逸話を持つ人物です。

宗于は、寛平6年（894年）に臣籍降下し、その後従四位下に叙せられました。これは、皇族から一般貴族となる際に与えられる高い位であり、宗于の優れた才能が早くから認められていたことを示唆しています。その後も順調に昇進を重ね、従四位上を経て、兵部大輔や右馬頭といった武官の要職を歴任します。醍醐天皇の治世前半は主に武官として活躍した一方、後半からは三河権守、相模守、信濃権守、伊勢権守と地方官を歴任し、朝廷の地方行政にも貢献しました。

地方官としての経験を経て、承平3年（933年）には右京大夫に任ぜられ、再び京官に復帰。天慶2年（939年）には正四位下まで昇進し、華々しいキャリアの頂点を極めました。しかし、同年11月23日、宗于は50歳あまりでこの世を去ります。

宗于は歌人としても高く評価されており、三十六歌仙の一人に数えられています。彼の才能は数々の歌合への参加によって示されています。例えば、寛平后宮歌合や是貞親王家歌合など、当時の貴族社会における重要な歌の競演の場に参加し、その場で優れた才能を発揮したと伝えられています。紀貫之との歌の贈答も記録されており、当時の歌壇における彼の存在感の大きさがうかがえます。また、伊勢地方に贈られた歌も残っており、その交流の広さがわかります。彼の作品は『古今和歌集』をはじめとする勅撰和歌集に15首も採録されており、その高い評価がわかります。さらに、宗于自身の歌集『宗于集』も存在したとされていますが、現存はしていません。

宗于の歌は、自然や情景描写に優れ、繊細な感性を反映した作品が多いとされています。中でも、小倉百人一首にも選ばれている以下の歌は、彼の代表作として知られています。

山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も 枯れぬと思へば

この歌は、冬の山里の寂しさを、人目や草木が枯れている様子と重ね合わせて表現したもので、静けさと侘しさを感じさせる名作です。『古今和歌集』に収められており、彼の高い歌の技量が伺えます。

宗于の生涯には、数々の興味深い逸話も残されています。『大和物語』には、宗于が自分の官位がなかなか上がらないことを嘆き、宇多天皇に訴えるエピソードが記されています。宗于は、和歌を通じて自分の苦悩を天皇に伝えようとしますが、天皇にはその真意が理解されませんでした。この逸話からは、宗于の正直な性格や、出世への願望、そして当時の宮廷社会の複雑な事情を垣間見ることができます。

宗于は、優れた歌人としてだけでなく、地方官としての経験も積んだ、多才な貴族でした。彼の歌は、現代においても人々の心を捉え、平安時代の貴族社会の一端を知る上で貴重な資料となっています。また、彼の生涯は、才能と現実、そして出世への願望との間で葛藤する人間の姿を映し出しており、現代社会においても共感できる部分が多いと言えるでしょう。彼の歌と生涯を通して、平安時代の貴族社会の文化や政治、そして人々の生き様をより深く理解することができます。

もう一度検索