火病

火病（ひびょう）

火病（ひびょう、またはかびょう）は、朝鮮民族特有の文化に根ざした精神的な偏りを持つ症候群であり、鬱火病（うっかびょう、うつひびょう）とも呼ばれます。この病は、怒りや悔しさといった感情を長期間抑圧した結果、心身に様々な不調をきたすことが特徴です。

歴史的背景

火病に関する認識は古く、朝鮮王朝時代まで遡ります。この時代、正祖の母による著書『閑中録』では、怒りが原因で胸が痛み、極度の不安や憂うつ状態を引き起こすことが記されています。韓国の文化では、怒りを「お腹の中から火の玉が上がる」と表現し、火病は怒りの抑圧から生じる心身の不調を指します。

症状と診断

火病は、国際的な精神疾患の診断基準である『DSM-IV』においても、不眠、疲労、パニック、不快感情、消化不良、全身の疼痛など多岐にわたる症状として認識されています。元「ミス・コリア」であり韓方医のキム・ソヒョンは、火病患者に見られる冷え、消化不良、慢性的な疲労感、抑うつなどの症状を挙げています。また、メンタルヘルスの専門家である中嶋泰憲も、火病の症状は身体と心に深刻な影響を及ぼすことを指摘しています。

増加する患者層

かつては火病に罹る患者の80%が女性でしたが、近年は男性患者も増加しています。2012年の調査では、韓国の小中高校生648万人のうち105万人がうつ病の兆候を示しており、その中でも22万人が専門家の診断を受けるべきとされます。また、韓国健康保険審査評価院のデータによると、年間11万5000人が火病の診療を受けており、多くは40代から50代の中年層です。

ネットスラングとしての火病

インターネットでは「火病」という言葉が頻繁に使用されますが、これは本来の火病とは異なります。急に怒り出す様子を指す用語として広がり、本来の背景を無視した誤用と言えます。特に日本のネット用語「ファビョン」とは、感情が高ぶりすぎて制御できなくなる状態を指しますが、これも火病の真の意味を捉えた言葉ではありません。

反響と社会問題

火病は韓国社会に深く根ざした問題で、特に職場環境におけるストレスが大きな要因です。2015年の調査によると、韓国の会社員の90%が火病の経験を持つとされています。怒りを抑圧する文化が、さまざまな身体的・精神的な苦痛として現れているのです。

日本では腹が立つことが多様な形で表現され、インドの伝承でもストレスが下腹部に蓄積されるとされ、文化的な背景も火病の理解に寄与します。ちなみに、ユング心理学では劣等感やコンプレックスの存在が火病の発症に寄与することが考えられています。

結論

火病は、朝鮮民族固有の文化が影響する精神的疾患です。社会全体が抱える問題として、感情の抑圧とそれに伴う身体的・精神的苦痛が重要であり、関連する認識を深めることが必要です。対処法や理解の向上が求められる中、この病の理解が広がり、適切なサポートを受ける人々が増えることが期待されます。

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