田村しげる

田村しげる

昭和期に活躍した作曲家、田村しげる（本名：田村 茂）は、1908年（明治41年）12月20日に現在の京都府京丹後市にあたる京都府中郡峰山町に生を受けました。1980年（昭和55年）10月14日に71歳でその生涯を閉じるまで、数多くの歌謡曲を手がけ、戦中戦後の日本における大衆音楽の発展に寄与しました。

少年時代を故郷で過ごした田村しげるは、1925年（大正14年）に地元の宮津中学校を卒業後、音楽家を志して上京。武蔵野音楽学校（現在の武蔵野音楽大学）に入学し、作曲を学びました。しかし、学業半ばの1927年（昭和2年）に発生した北丹後地震により、遠く離れた故郷の生家が被災し、一家は財産を失うという苦難に見舞われます。田村はこれを乗り越え、苦学しながら音楽の道を追求しました。

1931年（昭和6年）、武蔵野音楽大学を卒業した田村しげるは、ビクターレコードから発表した楽曲「酔って笑って」で作曲家としての第一歩を踏み出します。翌年にはキングレコードの専属作曲家となり、当時の人気歌手であった松島詩子をはじめとする多くの歌手に楽曲を提供し、その名を広めました。さらに活躍の場を広げ、ポリドールレコードでも積極的に活動。特に東海林太郎には多くのヒット曲を提供し、「山は夕焼」「母をたずねて」「綾乃の子守唄」「家なき児」といった楽曲は、東海林太郎の代表曲として知られています。

太平洋戦争後、田村しげるは日本の復興期において、人々の心に希望と安らぎを与えるラジオ歌謡の分野で重要な役割を果たします。活動の中心をコロムビアレコードに移し、同社の専属作曲家として「たそがれの夢」「白い花の咲く頃」「リラの花咲く頃」といった楽曲を次々と発表しました。これらの歌は、NHKのラジオ歌謡を通じて全国に広まり、広く人々に愛唱されました。「たそがれの夢」は伊藤久男が、「白い花の咲く頃」と「リラの花咲く頃」は岡本敦郎が歌い、それぞれの歌手の代表曲ともなっています。

私生活では、作詞家として知られる寺尾智沙を妻に迎えました。音楽家同士の夫婦であり、特に後世に残る名曲として名高い「白い花の咲く頃」は、妻・智沙が作詞、しげるが作曲を手がけた夫婦二人三脚による作品です。また、娘の田村奈巳は女優として活躍しました。

田村しげるの故郷である京丹後市には、彼の代表曲「白い花の咲く頃」にちなんだ記念碑が建立されています（1992年設置）。この石碑は丹後文化会館の敷地内にあり、ボタンを押すと曲のメロディーが流れる仕組みになっており、地元における彼の存在の大きさと、地域に愛され続ける楽曲であることを物語っています。生涯を通じて大衆の心に寄り添う歌を生み出し続けた田村しげるの功績は、日本の歌謡史に確かな足跡を残しています。

代表曲（一部）
『山は夕焼』（歌：東海林太郎）
『母をたずねて』（歌：東海林太郎）
『綾乃の子守唄』（歌：東海林太郎）
『白い花の咲く頃』（歌：岡本敦郎）
* 『リラの花咲く頃』（歌：岡本敦郎）

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