相続放棄

相続放棄：負の遺産を相続しないための制度

相続放棄とは、相続人が遺産の相続を一切放棄する民法上の制度です。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も一切相続しないことを意味します。被相続人の借金が膨大である場合や、相続財産に魅力を感じられない場合、また、家業の継承を円滑に進めるために、後継者以外の相続人が相続を放棄するケースなど、様々な状況で利用されています。

相続放棄の手続き

相続放棄を希望する者は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する必要があります。この手続きは、限定承認とは異なり、比較的簡潔です。申述にはいくつかの要件があり、相続を知った日から3ヶ月以内であること、単純承認とみなされる行為をしていないことが挙げられます。必要な書類を提出後、家庭裁判所から「相続放棄照会書」が送付され、必要事項を記入の上返送します。手続きが完了すると、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。

申述に際しては、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人と被相続人の関係に応じた戸籍謄本などの書類の添付が求められます。これらの書類を家庭裁判所に提出すると、通常1週間から10日程度で相続放棄照会書が送られてきます。回答書に必要事項を記入し、家庭裁判所に返送します。手続きが完了すると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送られてきます。

相続開始前に相続放棄を行うことは、強要のおそれがあるため認められません。また、相続分の放棄とは異なり、時期の制限や方式の制限はありません。生命保険の死亡保険金は被相続人の財産とはみなされず、保険金受取人の固有の財産とみなされるため、相続放棄をしても保険金受取人は保険金を受け取ることができます。

相続放棄の効果

相続放棄をした者は、初めから相続人ではなかったとみなされます。そのため、遺産分割とは異なり、第三者の権利を害する制限はありません。放棄者の直系卑属への代襲相続も発生しません。しかし、自己の財産と同一の注意義務を負い、相続放棄の撤回はできません。同順位の相続人が全員放棄した場合、後順位の者が相続人となります。例えば、子が全員放棄した場合は、父母が相続人となり、父母も放棄した場合は、兄弟姉妹が相続人となります。相続財産が債務超過の場合、債務を免れるには、すべての相続人が相続放棄する必要があります。

相続放棄は、遡及効力を持つため、登記を行う必要はありません。第三者に対抗するには、登記は不要です。相続税については、相続放棄をしても相続税の総額は変わりません。これは、租税回避を防止するためです。

相続放棄の増加傾向

相続放棄の申立件数は増加傾向にあり、バブル崩壊後には事業失敗による借金の相続回避が主な理由でしたが、近年は地方における地価の低迷、負動産の増加、核家族化、少子高齢化などが背景にあります。近年の増加傾向には、被相続人と交流がなかった遠縁の親族が法定相続人となり、相続放棄を選択するケースの増加も影響していると考えられます。

まとめ

相続放棄は、複雑な手続きや法的知識を必要とする制度です。相続に関する問題に直面した際には、専門家への相談が不可欠です。自己の権利を守るためにも、正しい知識と適切な対応が重要です。

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