福井シネマ

福井シネマ：100年の歴史を刻んだ映画館の軌跡

福井県福井市順化にあった映画館「福井シネマ」は、1921年の松竹館開業から2018年の閉館まで、およそ100年間にわたって地域の人々に愛されてきました。その歴史は、日本の映画史と深く関わり、数々の出来事を経て現代にまで続いていました。本稿では、福井シネマの興亡を、時代の変遷とともに詳細に紐解いていきます。

サイレント時代：競争と葛藤の始まり

福井で映画が上映されたのは日露戦争後とされており、当初は芝居小屋などを利用した上映が一般的でした。1919年末には福井劇場が開館し、本格的な常設映画館が誕生します。その翌年には、福井シネマの前身である松竹館が開業。しかし、その立地が順化尋常小学校に近かったことから、当時存在した「劇場寄席取締規則」に抵触するのではないかという議論が巻き起こりました。この問題は、学校移転の問題や政治的な思惑も絡み合い、複雑な様相を呈しました。結局、県による規則改正を経て、松竹館は1922年の正月公演で幕を開けることになります。

サイレント映画時代には、多くの弁士が映画に合わせた解説や効果音を担当しており、松竹館にも複数の弁士が所属していました。1924年には東亜キネマ系列となり館名も変更するなど、経営面でも様々な変化がありました。その後、再び松竹館に戻り、日本映画を中心に、洋画も上映するなど、幅広い作品を上映していました。

トーキー時代：技術革新と競争激化

1930年代に入ると、トーキー（トーキー映画）が普及し始めます。福井でも1929年にはトーキー上映が始まり、各映画館で弁士の削減問題などが発生し、労働争議に発展する例も見られました。福井シネマの前身である日活館でも弁士解雇を巡る争議が発生し、競争激化の時代を迎えます。こうした状況の中、常設映画館4館は福井映画業組合を結成し、料金や上映作品の調整を行うなど、協力体制を構築しました。しかし、競争は激しく、映画館の数は増減を繰り返しました。

戦時下と戦後：復興と時代の変化

第二次世界大戦の勃発により、映画界にも統制が強化され、1945年の福井空襲では福井シネマを含む市内の映画館は全焼しました。戦後、福井シネマは再開館しますが、1948年の福井地震で再び大きな被害を受け、全焼。多数の死傷者も出しました。地震による倒壊は、当時館内にいた人々の証言から、建物の脆弱性が明らかになっています。

地震後も福井シネマは再建され、1950年代には、大映、東映、東宝、新東宝などの作品を上映していました。その後、東映専門館となり「福井東映」の名称も用いるようになります。1959年には鉄筋コンクリート2階建ての新館が完成し、冷暖房完備の快適な空間が提供されるようになりました。東映の看板俳優である片岡千恵蔵氏も開館行事に参加するなど、地域に根付いた映画館としての存在感を示していました。

映画ビルの建設と閉館

1977年には「映画ビル」が開館し、東宝と東映の作品を交互に上映する体制となりました。ビルには「東映パラス」と「みゆき座」も併設され、座席数も大幅に増加しました。しかし、映画産業の低迷やシネマコンプレックスの台頭により、1990年代には「東映パラス」と「みゆき座」が閉館。その後も福井シネマは「シネマ1」「シネマ2」として営業を続け、さらに新しいビルを建設し「シネマ3」「シネマ4」もオープンさせました。しかし、郊外のシネマコンプレックスの台頭には抗えず、2018年9月10日、長い歴史に幕を閉じました。

まとめ

福井シネマは、サイレント映画時代からトーキー時代、戦時中、戦後と、激動の時代を生き抜いてきました。その歴史は、日本の映画史のみならず、福井の地域社会の歴史とも深く結びついています。100年近い歴史を持つ福井シネマの閉館は、時代の流れを感じさせる出来事であり、多くの地域住民に惜しまれつつ、その幕を閉じました。その跡地には、現在は商業施設が建ち並び、かつて映画館があった面影はほとんど残っていません。しかし、その歴史は、人々の記憶の中にしっかりと刻まれています。

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