禿

禿（かむろ）：遊郭の幼女と平安時代の密偵

「禿（かむろ）」という言葉は、多様な意味を持つ歴史的な語彙です。現代においては、頭に髪がない状態や、髪を短く刈り揃えた児童期の髪型、あるいはその髪型をした子供を指す場合もあります。しかし、歴史上、特に江戸時代においては、遊郭に身を置く幼女を指す言葉として広く用いられてきました。

江戸時代の遊郭における禿

江戸時代の遊郭では、7～8歳頃から遊郭に売られた少女や、遊女が産んだ娘などが「禿」と呼ばれていました。彼女たちは、太夫や花魁などの高級遊女の下で身の回りの世話をしながら、遊女としての知識や技能を学びました。これは一種の遊女見習い制度であり、禿の年齢を過ぎると「新造」となり、遊女としてのキャリアを本格的にスタートさせました。

嶋原などの遊郭では、芸妓に付き添う幼女も禿と呼ばれたケースもあります。また、通常の禿とは異なり、遊女の世話をするのではなく、楼主から茶道、華道、香道といった高度な教育を受けた「引込禿」と呼ばれる者も存在しました。これらは、将来大商人や有力な武家相手に稼ぐ可能性のある少女が選ばれ、特別な教育を受けていました。

禿の髪型

禿の髪型は時代によって変化しました。江戸時代中期までは、おかっぱ頭が一般的でしたが、後期以降は、吉原などでは「禿島田」と呼ばれる、多くの髪飾りで飾られた高島田が主流となりました。嶋原でも、江戸後期から戦前までは日本髪を結うのが一般的でした。

平安時代の『平家物語』における禿

平安時代末期の『平家物語』には、平清盛が権力を掌握した際に、「禿、禿童」と呼ばれる多数の子供たちが平安京中に放たれ、市井の情報を集め、平氏への批判や謀議などを密告していたという記述があります。これらの子供たちは、情報収集のための密偵として利用されていたと解釈されます。しかし、この記述は『平家物語』独自の描写であり、『玉葉』や『愚管抄』といった同時代の史料には同様の記述は見当たりません。そのため、史実としての裏付けには疑問が残ります。

祇園祭における禿

京都の祇園祭では、長刀鉾の稚児を補佐する2名の少年も「禿」と呼ばれます。これは、太夫や芸妓が2名の禿を従えている様子になぞらえたものと考えられています。

まとめ

「禿」という言葉は、時代や文脈によって様々な意味を持ちます。江戸時代の遊郭における遊女見習いの少女、平安時代の密偵、祇園祭の稚児の補佐役など、その役割は多岐に渡ります。現代では、古語として、その多様な意味合いと共に理解される必要があります。 それぞれの文脈を理解することで、この言葉の持つ奥深い歴史と文化的な背景を紐解くことができるでしょう。 また、現代語では、単に髪を短く切った子供を指す場合もあるため、文脈を注意深く読み取る必要があります。

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