絞り染め

絞り染め：日本が誇る伝統的な染色技法

絞り染めは、布の一部を糸で縛ったり、縫い締めたり、折りたたんだりして圧力を加え、染料が染み込まないようにすることで模様を作り出す染色技法です。この技法は「絞り」と略され、模様染めの中でも非常に素朴なものとされています。

絞り染めの起源と歴史

絞り染めは日本だけでなく、世界各地で自然発生的に生まれたと考えられています。古い例としては、インドのアジャンター石窟群の壁画に描かれた衣装に絞り染めと見られる模様が見られます。また、中央アジアのアスターナ古墓群から出土した6世紀頃の中国の絹や、中南米のインカ以前の時代の木綿絞りなど、世界各地でその存在が確認されています。

現在、世界で生産される絞り染めの中でも、日本のものは特に技法の種類が多く、国際的にも「shibori」として知られています。ただし、「Tie-dye」（タイダイ）という名前が絞り染め全体を指す言葉として用いられることもあり、呼び方には混乱も見られます。

日本の絞り染めの歴史

日本では、正倉院や法隆寺に伝わる布に絞り染めが施されたものが見られます。奈良時代には「三纈」（さんけち）と呼ばれる染色法があり、その中の「纐纈」（こうけち）が現在の絞り染めに当たります。しかし、奈良時代から中世にかけては、絞り染めは上層階級の表立った意匠として用いられることはありませんでした。

絞り染めが社会の表舞台に現れるのは室町時代から安土桃山時代にかけてで、この時代に絞り染めの技法を用いて絵画性を持った模様を施した「辻ヶ花」が登場しました。しかし、辻ヶ花は模様を染め分けるために絞り染めを用いるものであり、江戸時代に友禅の技法が出現すると、自由度や手間の面で劣るため急速に廃れました。

江戸時代の絞り染めは、高級絞りの「京鹿の子」と、庶民的な「地方絞り」に大別されます。京鹿の子は京都で作られる絹に絞りを施した精緻な「疋田鹿の子絞り」の総称で、布に凹凸を残すことで手仕事であることを表現し、付加価値を持たせています。一方、地方絞りは木綿布を藍染めにする庶民的な絞り染めで、豊後（現在の大分県）の豊後絞りや尾張（現在の愛知県）の有松・鳴海絞りなどが代表的です。特に有松・鳴海絞りは尾張藩の保護を受けて発展し、江戸時代以降最大の生産地となりました。

江戸時代の後期から明治にかけては、日本各地に絞りの産地が起こりましたが、第一次世界大戦後の不況や第二次世界大戦中の物資統制の影響を受け衰退しました。現在では、絞り染めの大きな産地は京と有松のみとなっています。これらの産地は後継者不足や安価な海外製品との競争などの問題を抱える一方で、海外への販路拡大や新しい素材を使った絞り製品の開発などの取り組みも行われています。

二大産地以外でも、岩手県の南部茜・紫根絞、福岡県の博多絞り、秋田県の浅舞絞、新潟県の白根絞、大分県の豊後絞り、熊本県の高瀬絞など、各地で絞り染めが小規模ながら行われています。

海外の絞り染め

絞り染めは世界各地に伝統的な産地が存在し、日本以外では特にインドやアフリカ地域で発達しています。インドではバンダナやサリーなどに絞り染めの模様が施されます。その他、インドネシア、中国、中央アジア、西アジアなどでも絞り染めの技法が見られます。

また、朝鮮半島では大正時代以降、日本の絞り染めの委託生産が行われ、第二次世界大戦後は中国でも日本の技法を用いた絞り製品が生産されるようになりました。ヨーロッパでは伝統的な絞り染めはあまり盛んではありませんでしたが、1970年代以降、多くのタイダイアーティストが絞り染めの技法を用いた作品を手がけるようになり、タイダイの名前で多くの絞り製品が流通しています。

国際絞り会議

国際絞り会議（International Shibori Symposium、ISS）は、1992年から開催されている絞り染めの国際会議です。第1回は名古屋市で開催され、その2年後にワールド絞りネットワーク（World Shibori Network、WSN）が設立されました。

絞り染めは、その多様な技法と美しい模様で、世界中の人々を魅了し続けています。

関連項目

染色
染織
タイダイアーティスト
手芸
草木染め
有松・鳴海絞り
* 有松・鳴海絞会館

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