肉じゃが

肉じゃが：歴史、発祥、そしてご当地グルメ

日本の家庭料理の定番として愛される肉じゃが。その歴史と発祥は意外にも謎に包まれています。醤油と砂糖で甘辛く煮込んだ牛肉とじゃがいものシンプルな料理ですが、そのルーツをめぐっては様々な説が飛び交い、現在に至るまで論争が続いています。

肉じゃが誕生の謎：複数の説と検証

肉じゃがの料理名として確認できる最古の記録は、1950年（昭和25年）の雑誌『主婦と生活』に掲載された外食券食堂のメニューにある「肉ジャガ」とされています。しかし、その詳細な内容は不明です。その後、1964年（昭和39年）の『きょうの料理』でレシピが紹介され、1975年（昭和50年）頃から料理本で一般的に使われるようになりました。1980年代には「おふくろの味」として広く認知され、家庭料理の代表格としての地位を確立しました。

海軍発祥説

1988年放送のテレビ番組『謎学の旅』では、舞鶴の『海軍厨業管理教科書』に記載された「甘煮」が肉じゃがのルーツであると主張されました。担当ディレクターからの依頼を受け、高森直史氏が調査を行い、材料や作り方から「甘煮」を肉じゃがと判断したのです。しかし、戦前の料理書に類似の料理が見つからないことから、この説の信憑性には疑問が残ります。

東郷平八郎発祥説

広く知られている説の一つに、東郷平八郎がイギリス留学中に食べたビーフシチューを再現しようと試みた結果、材料の都合から醤油と砂糖で味付けされた肉じゃがが生まれたというものです。この説は、舞鶴市による「肉じゃが」発祥地宣言の際に広まりました。しかし、「まいづる肉じゃがまつり実行委員会」の代表である清水孝夫氏が町おこしのため創作した話である可能性が高いです。さらに、東郷平八郎が舞鶴や呉に赴任する前に、海軍ではビーフシチューが作られていたという史料も存在します。

その他の説

食文化研究家の魚柄仁之助氏は、肉じゃがは各地の伝統的な「芋の煮物」や「芋の煮っころがし」に、戦後の肉料理の影響が加わって生まれたのではないかと推測しています。これは、肉じゃがのシンプルな構成を考えると、最も可能性の高い説と言えるでしょう。

発祥の地論争：舞鶴市と呉市

1995年、舞鶴市が東郷平八郎の赴任を理由に「肉じゃが」発祥の地を宣言しました。しかし、1998年には呉市も東郷平八郎の更なる以前の赴任を根拠に名乗りを上げ、発祥地論争が勃発しました。マスコミ報道により、「舞鶴・呉の双方が発祥地」との認識が広まりましたが、この論争自体が両市の連携を促し、観光や地域活性化に貢献しています。

ご当地グルメとしての肉じゃが

現在では、舞鶴市と呉市でそれぞれ「まいづる肉じゃが」と「くれ肉じゃが」としてご当地グルメ化されています。両市とも「海軍厨業管理教科書」の「甘煮」をベースとしており、使用するじゃがいもの品種などに違いが見られます。

まいづる肉じゃが

舞鶴市では、男爵いもを使用し、地域活性化のために市民有志によって「まいづる肉じゃがまつり実行委員会」が結成されました。

くれ肉じゃが

呉市では、メークインを使用し、地元市民団体「くれ肉じゃがの会」を中心に販売されています。

陸海軍の調理法

陸軍の『軍隊調理法』（1928年）には「牛肉煮込」という料理が記載されています。これは現在の肉じゃがに似ていますが、高森氏は肉の軟化調理法から「すき焼きにじゃがいもを入れた料理」と判断しています。一方、海軍の『海軍厨業管理教科書』（1938年）には「甘煮」が記載されていますが、これはレシピではなく、調理手順を示したものです。

結論

肉じゃがの起源は、複数の説が存在し、明確な結論は出ていません。しかし、各地の伝統的な芋料理と戦後の食文化の変化が複雑に絡み合い、現在の肉じゃがが生まれたと考えるのが自然でしょう。発祥の地論争も、地域活性化に貢献する一面を持っています。肉じゃがは、歴史と文化、そして人々の創意工夫が凝縮された、まさに国民的料理と言えるでしょう。

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