自伝

自伝について

自伝（じでん、英: autobiography）は、著者自身が自らの人生を振り返り、描写した文書を指します。自己の生涯を自分の視点で語るため、他者による伝記とは一線を画しています。自伝は、単なる記録ではなく、執筆者の記憶、感情、考え方を反映しています。日本語では自叙伝（じじょでん）とも呼ばれます。自伝という語の英語表記である解剖学用語「autobiography」は、ギリシア語で「自己」「生命」「書く」の意味を持つ言葉の組み合わせから来ています。

自伝の特徴

他者による伝記が多方面からの資料と視点をもとに編纂される一方、自伝は本人の記憶に基づいています。著者は、自身の人生を振り返り、重要だと思う出来事やエピソードを選び出し、再構成します。このように記述された内容は、著者の感情や経験が色濃く反映されたものとなり、読む者に独自の視点を提供します。古代ギリシャやローマにおいても、こうしたスタイルの文書は存在し、特に政治的背景を持つ著作が多かったといわれています。

アウグスティヌスの「告白」は、彼の内面についての考察と同時に人生の展開を示す代表的な自伝的作品です。近代においては、ベンジャミン・フランクリンが初めて自伝を広く普及させ、その影響を与えました。

回顧録との違い

自伝と混同されがちな言葉に回顧録（かいころく）があります。自伝が著者の人生全体に焦点を当てた作品であるのに対し、回顧録は特定の事象や個別のエピソードに重点を置きます。そのため、自伝は自己の生涯を網羅的に振り返る一方、回顧録は特定の出来事にしぼった思い出や見解を表現しています。

例えば、リバニウスが書いた人生の回想録は、公には公開されず、彼自身の研究のための資料として作成されたものです。現代では、多くの人々が自らの生活や人生を元にした回顧録を執筆し、出版しています。特に、1980年代以降は、一般の著名人だけでなく、多くの読者が回顧録を執筆するようになりました。

自伝の研究

自伝に関する研究も盛んに行われています。20世紀初頭にドイツの哲学者ゲオルク・ミッシュは、『自伝の歴史』という大部の著作を発表し、以後の研究の基盤となります。日本語訳はまだ存在しませんが、フィリップ・ルジェンヌによるフランス文学の自伝に関する研究書が出版されています。

著名な自伝

多くの著者による自伝が存在し、中には次のような名作があります：

• - 勝小吉『夢酔独言』
• - 福澤諭吉『福翁自伝』
• - アウグスティヌス『告白』
• - ヘンリー・アダムス『ヘンリー・アダムスの教育』

他にも、マハトマ・ガンディーやネルソン・マンデラなどの自伝が広く読まれ、多くの人に影響を与えています。

結論

自伝は個人の生涯を反映した重要な文学的形式であり、自己再認識や表現の手段です。その特異な特性から、他者による伝記や回顧録とは異なるアプローチで自己の歴史を語ります。その影響は、著者のみならず、広く社会に及んでおり、今後も多くの人々の心に新たな視点を提供し続けるでしょう。

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