花石綱

花石綱（かせきこう）

花石綱とは、中国・北宋時代末期、第8代皇帝である徽宗（きそう）が自身の庭園を造営するために、全国から集めさせた珍しい花、名木、奇石などのことです。また、それらを運搬する船団そのものを指すこともあります。「綱」という言葉は、もともと貨物を意味します。

概要

徽宗は、皇帝としての統治よりも、むしろ文人や画家としての才能に秀でていました。絵画、建築、造園に深い関心と卓越したセンスを持ち、自身の理想とする庭園を造るため、側近の童貫（どうかん）や蔡京（さいけい）、そして蔡京の推挙した朱勔（しゅべん）らに命じて、必要な品々を集めさせました。特に太湖石（たいこせき）のような奇石は珍重されました。

調達は主に、経済的に豊かな中国南部の江南地方で行われました。徽宗の目に留まった品は、強制的に買い上げられたり、時には強奪されることもありました。それらは運河や陸路を使い、都である開封（かいほう）へと運ばれました。その調達と運搬の方法は、民衆にとって大きな負担となるものでした。

陸路での輸送：通行の妨げになる民家は、容赦なく取り壊されました。
運河での輸送：邪魔になる橋は取り壊され、運河は花石綱の輸送のために占有され、一般の利用が制限されました。
* 丁寧な梱包：運搬中に品物が損傷しないよう、膠（にかわ）や粘土などの柔らかい素材で丁寧に梱包されました。しかし、この梱包作業に手間と時間がかかり、梱包された品物が巨大化することも、民衆の負担を増大させる要因となりました。

このように、強引な調達方法や、運搬にかかる莫大な費用と労力は、民衆の強い不満と恨みを招きました。その結果、「朱勔を誅せよ」と訴える方臘（ほうろう）の乱をはじめとする大規模な民衆蜂起が、江南地方一帯で頻発する一因となりました。事態を重く見た欽宗（きんそう）は、即位後に朱勔、蔡京、童貫を流罪に処し、蔡京は病死したものの、残る二人は最終的に処刑されました。

水滸伝への登場

花石綱は、明代に成立した小説『水滸伝』にも登場します。『水滸伝』は北宋末期を舞台としており、物語の中で、楊志（ようし）が花石綱の運搬に関わるエピソードが描かれています。また、物語終盤の方臘の反乱も、花石綱が引き起こした社会不安と深く関係しています。

『水滸伝』の原型となった『大宋宣和遺事』にも、花石綱に関するエピソードが登場することから、当時からこの事件が人々に強い印象を与えていたことがわかります。

花石綱は、徽宗の芸術への傾倒が生んだ負の遺産であり、北宋末期の社会不安を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

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