草の響き

草の響き

『草の響き』は、佐藤泰志による短編小説であり、1979年に『文藝』7月号で発表されました。その後、1982年に短編集『きみの鳥はうたえる』に収録されています。2021年には斎藤久志監督により映画化され、東出昌大が主演を務めました。

小説のあらすじ

物語は、自律神経失調症と診断された主人公の「彼」が、医師の勧めでランニングを始めることから始まります。彼は毎晩、大正天皇の墓所付近を走るうちに、そこにたむろしていた暴走族の少年の一人である「ノッポ」と知り合い、共に走るようになります。

季節が移り変わるにつれて、「ノッポ」との交流は途絶えていきます。そんなある夜、「彼」は「ノッポ」の友人から、「ノッポ」が自殺したという衝撃的な知らせを受けます。

映画について

映画『草の響き』は、2021年10月8日に公開された日本映画です。北海道函館市を舞台に、心の不調を抱えて帰郷した男が、治療の一環で始めたランニングを通じて、路上で出会った若者たちと心を通わせる姿を描いています。

シネマアイリス代表の菅原和博が開館25周年を記念して企画・製作・プロデュースを手掛けました。佐藤泰志の没後30周年にあたる2020年に映画製作が発表され、同年11月にクランクイン、全編函館ロケで撮影が行われました。

映画版あらすじ

東京から函館に帰郷した工藤和雄は、自律神経失調症と診断され、失業保険を受け取りながら療養生活を送ります。妻の純子はロープウェイの乗務員として働き、和雄を支えます。和雄は治療の一環としてジョギングを始めますが、そのコースの近くでスケートボードの練習をする高校生、小泉彰と高田弘斗に出会います。

弘斗は中学校でのいじめが原因で不登校になっており、彰は転校先の高校で疎外感を抱えていましたが、スケートボードを通じて心の安定を図っていました。二人は互いに教え合い、弘斗の姉である恵美も加わり、交流を深めていきます。ある夜、ジョギング中の和雄を見かけた彰は、彼を追いかけ、やがて言葉を交わすようになります。

彰は、友人たちとの関係に悩み、以前誘われた海へのダイブを実行しようとしますが、未遂に終わります。その後、一人で海に飛び込みます。一方、和雄は大学の学食で働き始め、純子の妊娠が発覚します。しかし、生活への不安から純子との間にすれ違いが生じ、ついには自殺未遂を起こし、精神病院へ入院することになります。

病院での療養中、和雄は純子の思いやりに触れ、徐々に心境が変化していきます。そして、解放病棟に移った彼は、テラスから見える海に向かって走り出すのでした。

原作との相違点

映画版では、舞台が八王子市から函館市に変更され、妻が登場するなど、オリジナル要素が加えられています。また、暴走族だった少年がスケートボーダーに変更されたり、主人公の自殺未遂と入院のエピソードが追加されたりするなど、物語の展開にも変更が見られます。

キャスト

工藤和雄：東出昌大
工藤純子：奈緒
佐久間研二：大東駿介
小泉彰：Kaya
高田弘斗：林裕太
高田恵美：三根有葵
和雄の父：利重剛
和雄の母：クノ真季子
* 宇野正子：室井滋

『草の響き』は、心の葛藤や再生、人間関係の複雑さを描き出した作品であり、観る者に深い感動と問いかけを与えるでしょう。

もう一度検索