菊水山駅

菊水山駅：六甲山中に消えた秘境の駅

神戸電鉄有馬線沿線、神戸市北区山田町に存在した菊水山駅は、2018年3月23日の廃止まで、多くの人々にとって忘れがたい存在でした。標高173メートルの六甲山中に位置するこの駅は、文字通り秘境駅として知られており、その歴史と特徴は、鉄道ファンならずとも興味深いものです。

アクセスの困難さと利用客の少なさ

駅周辺は緑豊かな山々に囲まれ、住宅や商業施設は皆無に等しく、利用客は極めて少なかったことが特徴です。2時間に1本程度の区間列車しか停車せず、さらに2001年のダイヤ改正後は停車する列車の種類も限定されました。停車する列車は、短い停車時間の中で乗降客の対応を行い、すぐに発車していました。神戸電鉄の主要駅では、菊水山駅を通過する列車について明確な案内がなされ、停車列車のみ「各駅停車」と表示されていました。

無人駅であった菊水山駅には、自動改札機や券売機といった設備はなく、乗降客は車掌とのやり取りで乗車券を処理していました。乗車時には手書きの乗車証明書が発行され、降車駅で運賃を精算するという、現代では珍しいスタイルが採用されていました。2001年以降粟生線、2004年以降有馬線で導入されたワンマン運転の車両は、この駅には一切停車しませんでした。

建設の難工事と歴史

有馬線の建設において、菊水山駅周辺は最も難工事を要した区間の一つでした。烏原川と急斜面という厳しい地形条件の中、花崗岩質の山腹をトンネルで貫通させる大規模な工事が行われたのです。2008年には、水害対策として石井ダムが建設されましたが、その際に路線の付け替えが行われ、菊水山駅北側には旧線のトンネル跡が残っています。

駅の歴史をたどると、1940年10月5日の神戸有馬電気鉄道の駅として開業に始まり、1947年の神有三木電気鉄道への合併、1949年の神戸電気鉄道への社名変更、1988年の神戸電鉄への社名変更を経て、2005年3月26日に営業休止、そして2018年3月23日に廃止という流れになります。

駅の構造と周辺環境

菊水山駅は相対式ホーム2面2線を有する地上駅で、ホームの有効長は5両分でした。駅舎はなく、上りホームに簡易的な待合所が設置されていたのみでした。駅へのアクセスは、新開地方面行上りホーム北側からで、下りホームへは構内踏切を通る必要がありました。

周辺環境としては、鈴蘭台下水処理場の職員の通勤利用があったものの、業務の省人化に伴い利用客が減少していきました。また、菊水山へのハイキングコースの起点という側面もありましたが、停車本数の少なさから、ハイカーの利用も限定的でした。2004年の調査では、1日あたりの乗車人員はわずか18人でした。駅周辺には、菊水山、菊水ゴルフクラブ、石井ダムなどがありましたが、駅からのアクセスは容易ではありませんでした。

廃止後

駅の廃止後、プラットホームや屋根、階段などは残されたままとなっています。しかし、駅への立ち入りは禁止されており、現在では静かにその歴史を物語っているのみです。テレビドラマの撮影にも使用されたことがあるなど、多くの思い出と共に、人々の記憶の中に残り続ける駅と言えるでしょう。

まとめ

菊水山駅は、アクセス困難な立地、利用客の減少、そして時代の変化という様々な要因が重なり、廃駅という運命を辿りました。しかし、その存在は、日本の秘境駅を語る上で欠かすことのできない、重要な歴史の一ページを刻んでいます。 周辺環境や歴史的背景を理解することで、この駅の持つ独特の魅力をより深く感じ取ることができるでしょう。

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