葛飾応為

葛飾応為：北斎の娘、そして独自の境地を開いた画家

葛飾応為は、江戸時代後期に活躍した、謎多き浮世絵師です。有名な浮世絵師、葛飾北斎の娘として知られていますが、単なる「北斎の娘」という枠組みでは収まりきらない、独自の才能と個性を持つ女性でした。本名は栄（えい）といい、お栄、阿栄、應栄、栄女といった表記も見られます。「応為」は、画号です。

北斎との複雑な関係

北斎には数人の子女がいましたが、応為は三女（一説には四女）でした。応為は、南沢等明という北斎の門人に嫁ぎますが、絵を描くことに没頭するあまり針仕事などをせず、夫の絵の才能をからかったために離婚、北斎のもとへ戻ります。北斎は、顎が張っていた応為のことを「アゴ」と呼んで可愛がったと伝えられています。北斎80歳代の自筆書簡には、応為の尖った顎を強調した似顔絵が添えられ、「腮の四角ナ女」と記されています。北斎の門人、露木為一による『北斎仮宅写生図』にも、北斎と応為の姿が描かれています。

応為は北斎のアシスタントとして制作にも携わったと推測されており、北斎の晩年の20年近くを一緒に過ごしたと考えられています。北斎は応為の才能を高く評価し、「美人画にかけては応為には敵わない。彼女は妙々と描き、よく画法に適っている」と語ったと伝えられています。北斎の私淑者であった渓斎英泉も、応為の画才を認めています。

独自の画風と才能

応為の初作は、『狂歌国尽』の挿絵と推定されています。北斎の娘とされる葛飾辰女と画風が酷似しており、同一人物とする説も有力です。応為は美人画に特に優れ、北斎の肉筆美人画の代作をしたともいわれます。また、北斎の春画の彩色を担当したという説もあります。

応為の作品数は現存するもので十数点と少なく、その希少性から、北斎の作品とされるもののうち、相当数が応為の作品、あるいは共作である可能性も指摘されています。特に北斎晩年の作品には、若々しく精緻すぎる彩色が見られ、応為の代筆とする見解もあります。

奔放な性格と晩年

応為は北斎に似て、やや型破りで男勝りな性格だったといいます。生活に困窮することはなく、絵を描くだけでなく、占い、仙術、豆人形作りなど、多様な趣味や副業を持っていました。また、弟子をもち、家庭教師のように絵を教え、独立した女性画家として活動していました。応為の弟子の一人は、応為と北斎の会話を通して、絵の才能を磨くための重要なヒントを得ています。

晩年は仏門に入り、加賀前田家に仕えて金沢で没したという説と、北斎が招かれた小布施で亡くなったという説があります。享年は諸説あり、67歳説や、慶応年間まで生きたという説も存在します。

応為が登場する作品

応為は、小説、戯曲、漫画、映画、テレビドラマ、アニメなど、様々な作品で取り上げられています。これらの作品を通して、応為の人となりや時代背景を垣間見ることができます。その数は多く、応為への関心の高さを物語っています。

まとめ

葛飾応為は、単なる「北斎の娘」としてではなく、独自の画風と才能で活躍した女性画家でした。奔放で型破りな性格、謎に満ちた晩年など、彼女の人生は多くの謎に包まれていますが、その作品と生涯は、現代においても多くの人の関心を集め続けています。今後の研究により、より多くの事実に光が当てられ、応為という人物像がさらに明らかになっていくことが期待されます。

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