蜘蛛男

江戸川乱歩の『蜘蛛男』

『蜘蛛男』は、推理小説の巨匠である江戸川乱歩によって書かれた作品で、日本の文学史において重要な位置を占めています。この作品は、1929年8月から1930年6月にかけて『講談倶楽部』に連載され、後に多くの読者に愛される結果となりました。

著者乱歩は、探偵小説のスタイルを確立する中で、短編小説を理想としていましたが、彼の中長編作品である『パノラマ島奇談』や『一寸法師』は、映画化されるなど高い人気を誇りました。しかし、これらの作品は乱歩自身が描く理想とはかけ離れた「通俗作品」となってしまい、その結果、休筆を余儀なくされました。その後、約1年の沈黙を経て、乱歩は『陰獣』や『孤島の鬼』といった中長編作品を世に送り出し、その評価は非常に高いものでした。このことが、乱歩に「通俗もの」を書く意欲を再燃させ、『蜘蛛男』の執筆へとつながります。

本作のあらすじは、東京の小さな美術商「稲垣商店」に関する恐ろしい事件から始まります。事務員募集広告をにぎわわせた里見芳枝が、店長の稲垣平造と出かけたきり、行方不明になってしまいます。実は、稲垣は多くの女性を巧妙に誘拐し、命を奪う残忍な殺人鬼だったのです。芳枝は、のちに石膏像に閉じ込められた状態で発見され、その残虐性が際立ちます。姉の絹枝もまた、ドラスティックな運命を辿り、彼女の死体は水族館に沈められていました。

このような状況の中で、「蜘蛛男」と呼ばれるこの殺人鬼は、次なる標的として人気女優の富士洋子を狙います。事件を追う私立探偵の畔柳友助博士と助手の野崎三郎は、警視庁の波越警部と協力し、撮影現場での警備を強化しますが、蜘蛛男はその怪物的な巧みに逃げ続けます。また、東京中が恐怖に包まれる中で、名探偵の明智小五郎が登場し、事件の糸口をつかみ始めます。

明智小五郎は、洋行から帰国したばかりの探偵であり、すでに蜘蛛男の正体に迫っていました。彼は、富士洋子を田舎にかくまうことを計画し、蜘蛛男を誘引する巧妙な罠を仕掛けます。蜘蛛男との対決が繰り広げられ、物語は緊迫感を増していきます。この過程でさまざまな展開が待ち受けており、最後には異様な大パノラマ館における蜘蛛男の「犯罪芸術」が目の前に現れることになります。

『蜘蛛男』は、文学のみならず映像作品としても評価され、1958年には新映画社が制作した映画版も公開されました。この映画は2部構成で、明智小五郎を藤田進が演じるなど、多くの魅力的なキャストによって物語が再構築されました。乱歩の作品が持つ独自の魅力は、今なお多くの人々に受け継がれ、探偵小説の金字塔として輝き続けています。

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