観光政策

観光政策の歴史と現状

観光政策は、社会における人の移動という構造を捉え、その法制度を中心に分析されます。これは、観光構造を「日常と非日常の差異を求める人の移動」と捉える通説に基づいています。

観光政策の黎明期：外貨獲得と国威発揚

1930年代、日本は外客誘致のため国際観光局を設立しました。これは、ロンドン海軍軍縮条約後の国際収支改善策の一環であり、観光は外貨獲得の手段として重視されました。当初は軍事施設視察などにも「観光」という言葉が用いられていましたが、国際観光局の設立とともに、海外からの観光客誘致に特化した意味合いを持つようになりました。

国際観光局の命名には、当時の鉄道大臣である江木翼の強いこだわりがありました。彼は、観光を「日本の姿を外国に宣揚し、賓客を歓待する」という国威発揚の手段と捉えていました。この考え方は、後のオリンピック誘致などにも影響を与え、観光は単なる旅行ではなく、国家の威信を示すものとしての意味合いを持つようになりました。

戦後の国内観光政策：制度整備と変化

戦後、観光政策は連合国占領下において外客誘致・外貨獲得を主目的とする国家政策として推進されました。1948年から1952年にかけて、旅館業法、温泉法、国際観光事業助成法、通訳案内業法、国際観光ホテル整備法、旅行あっ旋業法といった、現在の観光関連法制度の基礎となる法律が制定されました。この時期までは、観光は外客誘致を意味していましたが、占領終了後、国内観光の重要性が認識されるようになり、「観光」という言葉が国内旅行にも使われるようになりました。

1950年には、バス事業の免許基準が緩和され、国内観光客向けのバス会社が多く設立されました。この頃から、観光は現代的な意味で使用されるようになり、1960年代には、旧観光基本法が制定されました。しかし、この法律は、観光の概念があいまいであったため、具体的な政策展開には結びつきませんでした。

新たな観光政策への転換：観光立国推進基本法と観光庁の設立

2003年、自由民主党と保守新党の合意により、観光立国推進基本法が制定されました。この法律は、外貨獲得だけでなく、日本の文化や魅力を世界に発信する国威発揚の側面を強調しました。また、旧観光基本法では、地方公共団体は国の施策に準じて施策を講じることとされていましたが、観光立国推進基本法では、地方公共団体が自主的・主体的に地域特性を生かした施策を策定・実施する責任を持つとされました。

この法律の制定に伴い、行政組織の強化も図られ、2008年には観光庁が設置されました。これにより、観光政策は、国の主導から、地方の主体性を尊重した政策へと転換することになりました。

観光政策の現状と課題

今日の観光政策は、外貨獲得、消費者保護、地域振興、国威発揚、国際親善など、多岐にわたる目的を持っています。これらの目的を達成するために、行政組織、税・助成制度、観光資源制度、宿泊制度、旅客運送制度、旅行業制度など、様々な観光制度が整備されています。

しかし、観光政策の議論は、観光概念の曖昧さや、規範性のある法制度の欠如により、政策論争が活発に行われていない現状があります。今後は、これらの課題を克服し、新たな人流制度を構築するとともに、各自治体が展開する地域観光政策についても詳細な分析が求められます。

今後の展望

観光政策は、人々の移動と社会構造の変化に対応し、常に進化を続ける必要があります。今後は、持続可能な観光の実現に向けて、環境への配慮や地域社会との共生を重視した政策展開が求められます。また、デジタル技術を活用した新たな観光のあり方を模索し、観光産業の活性化と地域振興に貢献していくことが重要となります。

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