賢木

賢木（さかき） - 源氏物語 第十帖

『源氏物語』第十帖「賢木」は、光源氏と六条御息所の悲しい別れ、そして源氏の運命を大きく変える出来事が展開する重要な巻です。巻名は、光源氏と六条御息所が交わした和歌に由来します。その和歌は、運命の残酷さと、過ぎ去った愛への切ない想いを象徴的に表現しています。この帖は、謡曲『野宮』の題材にもなっており、物語の持つ深い悲劇性と芸術性の高さがうかがえます。

あらすじ

物語は、光源氏が23歳から25歳にかけての期間を描いています。光源氏との結婚を諦めた六条御息所は、娘の斎宮と共に伊勢へ向かうことを決意します。紫の上との結婚生活を送る光源氏も、御息所の身を案じ、秋深まる野宮を訪れ、別れを惜しみます。この場面では、かつての愛の深さと、今はもう取り戻せない過去への切ない想いが、繊細な筆致で描かれています。

斎宮の下向後、桐壺帝が崩御するという衝撃的な出来事が起こります。この帝の死は、物語全体に暗い影を落とす重要な転換点となります。光源氏は、亡き藤壺への深い恋慕にますます苦しみますが、藤壺は光源氏の想いに応えようとせず、強く拒絶し続けます。

藤壺は、光源氏や身内にも知らせず、桐壺帝の一周忌の後に突如として出家します。これは、東宮の身分にある光源氏への危機を回避するため、そして自身の身を守るための苦渋の決断だったと言えるでしょう。この藤壺の出家は、光源氏に大きな悲しみと絶望をもたらします。

深い悲しみに暮れる光源氏は、右大臣家の勢力に押され、鬱屈した日々を送ります。そんな中、今は尚侍となった朧月夜と密かに逢瀬を重ねるようになります。しかし、ある晩、右大臣にその現場を目撃されてしまいます。

激怒した右大臣と弘徽殿大后は、この機会を利用して、光源氏を政界から追放しようと画策します。この出来事は、光源氏の輝かしい人生に終止符を打つ、大きな転換点となるのです。物語は、光源氏の失脚という衝撃的な結末へと向かっていきますが、同時に、彼の複雑な心情や、周囲の人々の様々な思惑が丁寧に描かれており、読者の心に深い余韻を残します。

巻名の由来

「賢木」という巻名は、光源氏と六条御息所が詠んだ和歌に由来しています。この和歌は、運命の残酷さと、失われた愛への切ない想いを象徴的に表現しており、巻の主題を的確に表しています。和歌に込められた深い意味を理解することで、物語への理解がさらに深まるでしょう。

参考

渋谷栄一による定家本の本文・現代語訳・注釈
『源氏物語　10 榊』：新字新仮名 - 青空文庫（与謝野晶子訳）

これらの資料を参照することで、「賢木」のより深い理解に繋がります。特に、定家本原文と現代語訳を比較することで、古典文学の奥深さを知ることができます。また、与謝野晶子訳は、現代語で読みやすく、物語の世界観をより身近に感じられるでしょう。

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