足洗邸

足洗邸

足洗邸（あしあらいやしき）は、江戸時代の本所（現在の東京都墨田区）を舞台とした、本所七不思議として知られる怪談の一つです。

概要

物語は、江戸時代の本所三笠町（現在の墨田区亀沢）にあった旗本、味野岌之助（あじのきゅうのすけ）の上屋敷で起こります。毎晩のように、屋敷の天井裏から激しい物音が響き渡り、続いて「足を洗え」という声が聞こえます。その直後、天井を突き破って、剛毛に覆われた巨大な足が現れるのです。

屋敷の者が言われるままに足を洗ってやると、足は天井裏へと消えていきます。しかし、この奇妙な現象は毎晩繰り返され、もし足を洗わずに放置すると、足の主は怒り狂い、家中の天井を踏み抜いて暴れ回るというのです。

この異様な事態に困り果てた味野は、同僚の旗本に相談を持ちかけます。すると、同僚はその話に強い興味を示し、上司の許可を得て味野と上屋敷を交換することになりました。ところが、同僚がその屋敷に移り住んでからは、不思議なことに足は二度と現れなかったということです。

この怪談に登場する大足の怪物の台詞が「あらえ」であり、怪談の名称が「あらい」となっているのは、江戸言葉特有の「え」と「い」の混同によるものと考えられています。

類話

本所七不思議の一つである置行堀（おきゆきぼり）の正体がタヌキであり、そのタヌキが足洗邸に似た怪異を引き起こしたという話も存在します。明和2年（1765年）には、置行堀のタヌキが人間に捕らえられ、酷い目に遭わされて瀕死の状態でした。そこへ、偶然通りかかった小宮山左善（こみやま さぜん）という人物が、タヌキを哀れに思い、捕らえた人々に金を与えて逃がしてやりました。

その夜、タヌキは女の姿に化けて左善の枕元に現れ、左善の家の下女が悪事を企んでいると忠告し、姿を消しました。しばらく後、左善は下女の恋人の浪人によって殺害されてしまいます。数日後、左善の一人息子の膳一（ぜんいち）のもとにタヌキが現れ、事件の真相を教えました。膳一は仇討ちを決意しますが、敵は強く、逆に追い詰められてしまいます。その時、タヌキが左善の姿に化けて現れ、膳一に加勢し、膳一は無事に仇を討つことができました。それ以来、小宮山家では凶事が起こる前触れとして、天井から足が突き出すようになったと言われています。

また、嘉永年間には、六番町に住んでいた御手洗主計（みたらい かずえ）という旗本の家でも、「蔵の大足」または「御手洗氏の足洗い」と呼ばれる同様の怪異が起こったと伝えられています。雑物庫の戸がひとりでに開き、巨大な右足が現れます。その足を洗ってやると、今度は左足が現れます。両方の足を洗い終えると、足は引っ込み、戸が閉まるというものでした。

この大足を退治しようと刀で斬りつけても、まるで煙を斬るように効果がなく、祈祷で追い払おうとすると、大足は暴れ回り、祈祷者を踏みつけ、雑物庫の中をめちゃくちゃに荒らして中の品物を壊してしまう始末でした。しかし、この大足は迷惑がられるどころか、以前に雑物庫に忍び込んだ泥棒を踏みつけて捕まえたことがあったため、御手洗家ではこの足を家宝の守護者として「ご隠居」と呼び、家の大切なものはすべてその雑物庫にしまっていたそうです。

いつしか、女性が洗わないと足は引っ込まないようになり、主計がこの仕事のために女性を雇っても、すぐに嫌がって辞めてしまうという状況でした。この怪異は明治時代前期まで語り継がれ、1887年（明治20年）4月29日付のやまと新聞の記事でも報じられました。

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