通盛

能楽『通盛』について

能楽の一作品である『通盛』（みちもり）は、室町時代の劇作家、井阿弥によって創作された公達物の能です。この作品は、特に修羅能として知られ、観客に深い感動を与える内容となっています。

あらすじ

物語は、阿波の鳴門にて夜ごと平家一門の霊を弔う僧侶の元から始まります。僧は従僧と共に読経を捧げていると、静かな波の中から船の漕ぐ音が聞こえてきます。その船には、年老いた漁翁とその妻が乗っており、二人は悲しみを抱えながら漁を行っています。僧侶の読経を聞きつけた漁翁夫婦は、船を漕ぐ手をやめ、その声に耳を傾けます。

僧侶は二人を磯に招き、漁のろうそくの灯りを頼りに経典をさらに読み始めます。すると漁翁の妻が、小宰相の局の悲劇を語り始めました。彼女は、小宰相が須磨の浦で敵に襲われ、鳴門まで追われた様子を語り、その逃げ道の中で悲しみの中入水を選んだことを伝えます。

小宰相は乳母に別れを告げ、泣きながら海に飛び込むのですが、その瞬間、夫婦は海の底に姿を消してしまいます。僧侶は、法華経の方便品の経文を唱え始め、教えによれば、この教えを聞く者は成仏できるとされています。その言葉に導かれ、武士の姿をした越前の三位通盛と、小宰相の霊が波の上に現れます。

通盛は、悲惨な一の谷での戦いと、小宰相との別れについて語り始めます。彼は、名ある武士に出会い、討ち死にしたいと願ったこと、その結果、木村源五重章と共に戦うことになり、修羅道の苦しみを受け入れたことを伝えました。通盛は、僧侶に対して、彼の霊を弔ってほしいと切実に願うのです。読経を聞く者は、悪鬼さえも心を和らげ、成仏できるとの教えに感謝します。

登場人物

• - 前シテ: 漁翁
• - 後シテ: 通盛の亡霊
• - 前ツレ: 女
• - 後ツレ: 小宰相の亡霊
• - ワキ: 僧
• - ワキツレ: 従僧
• - アイ: 里人

作者・典拠

『通盛』は、『平家物語』をもとにしている作品ですが、世阿弥の改訂版とされる説があります。特に、作品中での夫婦の絆をテーマにした描写が、原作とは異なる形で表現されている点が特徴です。世阿弥はこの曲を評価しており、主に削除を中心に改作した可能性が高いとされています。

脚注・参考文献

『通盛』に関する詳しい情報は、梅原猛や観世清和による『能を読む①翁と観阿弥』などの参考文献を参照してください。また、大槻能楽堂の曲目解説も有益です。

関連項目

• - 平家物語
• - 平通盛
• - 小宰相
• - 平家の落人

このように、能楽『通盛』は、平家一門の悲劇的な運命を通じて愛や別れの深いテーマを描いています。

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