酒石酸

酒石酸についての詳細

酒石酸（しゅせきさん、Tartaric acid）は、主に酸味のある果物、特にブドウやワインに豊富に存在する有機化合物です。この化合物はヒドロキシ酸の一種であり、IUPAC命名法では2,3-ジヒドロキシブタン二酸（2,3-dihydroxy butanedioic acid）と呼ばれています。酒石酸の名前は、ワイン樽に蓄積される沈殿物から由来しており、この沈殿物を指して「酒石」とも称されます。

常温では無色の固体として存在し、極性溶媒によく溶解します。水においては、L体、D体、メソ体の形式でそれぞれ良く溶けますが、ラセミ体に関しては比較的溶解が難しい特徴があります。また、英語の名称Tartaric acidからタルタル酸と呼ばれることもあります。

不斉炭素と光学異性体

酒石酸は二つの不斉炭素原子を含むため、L-（+）-酒石酸（2R,3R）、D-（−）-酒石酸（2S,3S）、メソ酒石酸（2R,3S）の三種類の異性体が存在します。フランスの科学者ルイ・パスツールは、ラセミ体である酒石酸塩（酒石酸ナトリウムアンモニウム）を光学的に分割することに成功し、光学異性体の概念を初めて明らかにしました。自然界に多く見られるのはL体で、メソ酒石酸は自然には存在せず、キラリティを持たない特性があります。一方、ラセミ体はブドウ酸とも呼ばれることがあります。

酒石酸の用途

酒石酸は、その性質から食品添加物として広く利用されています。具体的には、ベーキングパウダーや酸味料などに添加され、食品の風味を引き立てる役割を担っています。医薬品においては、その水溶性を改善するため、酒石酸の塩形態で供給されることも多いです。

さらに、有機合成化学の分野では、酒石酸が光学分割剤として用いられ、誘導体が不斉触媒としても利用されます。特に、酒石酸ジエチルを使ったシャープレス酸化は有名な反応です。

相撲の世界では、ちゃんこ鍋に使用されるポン酢を自家製で作る際、市販のものではなく酒石酸をお湯に溶かして、それを醤油に加え、香りを引き出すために柑橘類を絞り入れることもあります。これによって、独自の風味を楽しむことができます。

健康への影響

酒石酸には「疲労を回復させる」「整腸作用がある」といった言い伝えがありますが、これに関しては人間に対する有効性や安全性に関する医学的データは十分ではありません。動物実験でのデータでは、酒石酸がリンやカルシウムの腸管からの吸収を妨げる可能性が示されていますが、具体的な影響についての研究は更なる検証を必要とします。

関連項目

• - 酒石酸カリウムナトリウム
• - 酒石酸デヒドロゲナーゼ
• - meso-酒石酸デヒドロゲナーゼ
• - ジャービル・ブン・ハイヤーン

このように、酒石酸は多岐にわたる用途を持つ化合物であり、日常生活にもさまざまな形で関与しています。

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