酒石酸カリウムナトリウム

ロッシェル塩：歴史、性質、そして多様な用途

ロッシェル塩、正式名称を酒石酸カリウムナトリウム（Potassium sodium tartrate）というこの物質は、1675年頃、フランスの薬学者ピエール・セニエットによって発見されました。発見地であるフランスのラ・ロシェルにちなんでロッシェル塩、または発見者の名前に因んでセニエット塩とも呼ばれています。

物理的性質と食品用途

ロッシェル塩は無色または青白色の結晶で、通常は4分子の結晶水を含んでいます。その化学式はKNaC4H4O6・4H2Oと表されます。水に非常に溶けやすい一方、アルコールには溶けにくいという性質を持っています。

独特のやや塩辛く清涼感のある風味を持ち、EUでは食品添加物（E337）として認められています。その穏やかな還元作用も特徴で、古くは鏡の製造にも利用されていました。

圧電効果と歴史的役割

ロッシェル塩は、単結晶の状態では4000程度の高い比誘電率を示す強誘電体です。しかし、その強誘電性を示す温度範囲は255～297Kと狭く、この点が他の圧電材料との大きな違いです。

1921年に強誘電体であることが発見されると、クリスタルイヤホンやクリスタルマイクといった圧電素子として広く用いられるようになりました。第二次世界大戦中は、ドイツ軍が対潜水艦用の水中聴音機などに使用していた記録も残っています。

日本でも、ミッドウェー海戦後、ドイツの技術導入を機に、旧日本海軍の要請から大蔵省がワイン生産を奨励するなど、ロッシェル塩の生産は盛んに行われました。しかし、現在では、湿気に弱く、リン酸二水素カリウム（KDP）やチタン酸バリウム（BT）などのより優れた材料が登場したため、圧電素子としての利用は減少しています。

キレート作用と化学分析

水に溶けやすく、水中では電離してキレート作用を持つ酒石酸イオンを生じることから、弱塩基性キレート剤として幅広く利用されています。

工業的にはめっき液の成分として、化学分析においてはフェーリング試験、ベルトラン試液、ビウレット試験、ネスラー試験、カドミウムの定量など、様々な試薬として用いられています。また、有機合成においては、水素化アルミニウム系試薬を用いた反応の後処理で、エマルションや沈殿の形成を抑制する目的で用いられることもあります。

ロッシェル塩の調製

ロッシェル塩は、酒石酸水素カリウムの加熱溶液に炭酸ナトリウムを加えることで合成できます。熱い状態で濾過し、乾燥させることで結晶を得ることができます。

かつては、スカイラブでの微小重力環境下において、ロッシェル塩の大型結晶育成実験も行われたという興味深い歴史も持っています。ロッシェル塩は、その発見から現在に至るまで、科学技術の発展に貢献してきたと言えるでしょう。

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