野村胡堂

野村胡堂：小説家、音楽評論家、そして教育者

1882年、岩手県に生まれた野村胡堂は、小説家として『銭形平次捕物控』で広く知られる人物です。しかし、彼の活動は小説だけに留まりません。音楽評論家としても活躍し、「あらえびす」の筆名でレコード評論などを執筆していました。本名は野村長一。作家の松田瓊子は娘にあたります。

幼少期と学生時代：文学と音楽への関心の芽生え

農業を営む父と母の次男として生まれた胡堂は、幼少期から『絵本太閤記』や『水滸伝』などの古典を読み漁り、豊かな想像力を育みました。『水滸伝』の登場人物、張清の投石の技は、後の『銭形平次』における投げ銭のアイデアに繋がったと言われています。

盛岡中学校時代には、金田一京助や石川啄木と交流。啄木には俳句や短歌の手ほどきをしたとも言われ、校友会雑誌の編集にも共同で携わりました。在学中は、学校改革を訴える同盟休校を主導するなど、行動力も際立っていました。啄木らと短歌会「白羊会」を結成し、「右近」の筆名で参加した経験も持ちます。

第一高等学校を経て東京帝国大学法科大学に進学するも、父の死をきっかけに学業を断念。報知社に入社し、政治部に配属されます。同紙で「人類館」という人物評論欄を連載開始。この時から「胡堂」を自身の号として使用し始めます。「あらえびす」の筆名でレコード評論も執筆するなど、多方面で才能を発揮しました。その後、社会部夕刊主任、社会部長、調査部長兼学芸部長、編集局相談役を歴任しました。

『銭形平次捕物控』と作家としての成功

1931年、『文藝春秋オール讀物號』に掲載された「金色の処女」で、銭形平次を主人公とする捕物帳シリーズを開始。これが大ヒットとなり、第二次世界大戦後も1957年まで、長編・短編合わせて383編もの作品を発表しました。捕物作家クラブ（後の日本作家クラブ）の初代会長も務め、作家としての地位を確立します。

音楽評論家「あらえびす」としての活動

「あらえびす」の筆名で発表した音楽評論は、レコード文化黎明期の貴重な資料となっています。浄瑠璃の「袖萩祭文」に由来するこの筆名は、胡堂の堅いイメージとは対照的に、親しみやすい印象を与えています。数多くのレコード評論や音楽解説書を執筆し、日本の音楽文化の発展に貢献しました。

郷里への貢献と晩年

胡堂は、私財を投じて紫波町に胡堂文庫（現在の紫波町図書館）を設立するなど、郷里への貢献にも積極的に取り組みました。また、学資の問題で学業を断念した自身の経験から、経済的な理由で学業を続けられない学生を支援するため、野村学芸財団を設立しました。1963年、肺炎のため80歳で死去。没後も、彼の功績は様々な形で称えられています。

作品リスト

野村胡堂は多様なジャンルの作品を発表しました。代表作である『銭形平次捕物控』シリーズを始め、少年少女小説、科学小説、奇談集、音楽評論など、その幅広さは特筆に値します。彼の作品は、時代やジャンルを超えて、多くの人々に読み継がれています。

まとめ：多様な才能と社会貢献

野村胡堂は、小説家、音楽評論家、教育者として、多方面で活躍した人物です。『銭形平次捕物控』という代表作によって広く知られていますが、彼の生涯は、文学、音楽、そして教育への深い愛情と、社会貢献への強い意志によって彩られています。その多才な才能と、後世への貢献は、現在も人々に大きな影響を与え続けています。

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