鬼熊

鬼熊（おにぐま）

鬼熊は、主に長野県の木曽谷に伝わる妖怪で、江戸時代の奇談集『絵本百物語』にも記述が見られます。これは、年老いた熊が妖怪へと変化したものと考えられています。

特徴

鬼熊は、普段は人前に姿を現すことはほとんどありません。しかし、夜更けになると山から人里へと現れ、まるで人のように二本足で直立歩行すると言われています。その目的は、家畜である牛や馬を捕らえ、山へと持ち帰って食べることにあります。

鬼熊の最大の特徴はその怪力です。例えば、猿などを掌で押さえつけるだけで簡単に殺してしまうほどです。また、ある人が山中で、鬼熊が6、7尺（約1.8～2.1メートル）もある巨大な岩を谷底へ落とすのを目撃したという話も残っています。人々がその岩を動かそうと試みましたが、10人がかりでも全く動かすことができなかったそうです。この岩は「鬼熊石」と呼ばれ、現在も木曽山中に存在すると伝えられています。

退治方法

鬼熊を仕留める方法も伝えられています。それは、まず大木を井桁のように組み、藤蔓を使って鬼熊の巣穴の口を塞ぎます。そして、巣穴の奥に様々な木を詰め込むと、鬼熊は行き場を失って穴の口へと出てこざるを得ません。そこを狙って槍で突き、鉄砲で撃ち取る、というものでした。

享保年間初期には実際に鬼熊が仕留められたという記録が残っています。その鬼熊の皮を広げてみたところ、畳6畳分もの大きさがあったと伝えられています。

北海道の鬼熊

長野県木曽谷の伝承とは別に、北海道では、人を襲う凶暴な羆（ヒグマ）のことを「鬼熊」と呼んで恐れていたそうです。

参考文献

多田克己 編『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』国書刊行会、1997年。ISBN 978-4-3360-3948-4。
水木しげる『図説 日本妖怪大全』講談社〈講談社+α文庫〉、1984年。ISBN 978-4-06-256049-8。

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