ČKDタトラ

ČKDタトラ：東欧を代表する鉄道車両メーカーの興亡

ČKDタトラは、かつてチェコスロバキア（現チェコ）のプラハに拠点を置いていた、鉄道車両メーカーです。特に、社会主義時代に「タトラカー」と呼ばれる高性能路面電車を大量生産し、東側諸国を中心に世界各地へ供給したことで知られています。その歴史は、19世紀のリングホッファー工場に遡ります。

リングホッファー工場の設立と発展

1852年、ドイツ出身のフランティシェク・リングホッファー2世によって、リングホッファー工場が設立されました。当初は貨車の製造から始まり、その後客車、そして馬車鉄道や路面電車など、軌道交通向け車両の生産へと事業を拡大していきました。

工場は着実に成長を続け、オーストリア＝ハンガリー帝国における重要な生産拠点の一つとなります。1911年には株式会社へと改組され、第一次世界大戦期には世界最大の客車・貨車生産拠点へと発展しました。チェコスロバキア成立後も、国内の工業メーカーを吸収し、更なる規模拡大を図りました。1936年には社名をリングホッファー・タトラへと変更しています。

リングホッファー家が所有していた時代には、皇帝や国王といった王侯貴族向けの豪華な特別車両や、プラハ市電向けの車両などを製造していました。

国営化とタトラカーの誕生

第二次世界大戦後、チェコスロバキアが社会主義国家となると、リングホッファー・タトラも国営企業となり、「タトラ国営会社」と社名を変更しました。その後、工場の再編を経て、スミーホフ地区の工場は「タトラ国営会社スミーホフ工場」となりました。

1963年、ČKD社の一部門となり、「ČKDタトラ」として新たなスタートを切ります。この頃から、同社はタトラカーと呼ばれる路面電車の製造に注力するようになります。タトラカーは、アメリカで開発された高性能路面電車・PCCカーの技術を導入したもので、東側諸国を中心に広く採用されました。特に、タトラT3は13,000両を超える大量生産を記録し、ČKDタトラを代表する製品となりました。

タトラカー以外にも、客車やトロリーバス、タトラ電鉄線向けの電車などを製造していました。また、プラハ地下鉄の開通に向けて、地下鉄用車両の開発も行いましたが、計画変更により営業運転には至りませんでした。

1980年代には、スミーホフからズリチーンへの工場移転と規模拡大が計画され、1997年から本格的な生産が開始されました。

民営化と破産、そしてその後

ビロード革命を経て民営化されたČKDタトラは、超低床電車の開発にも着手しました。しかし、ČKDグループ全体の需要減少や、製品の品質問題などが重なり、経営が悪化。1999年には多額の負債を抱え、2000年に破産してしまいます。

破産後、ČKDグループの資産はシーメンスの子会社であるSKVへと移管されました。シーメンスは一時、スミーホフ工場とズリチーン工場で鉄道車両の製造を続けましたが、2009年までに両工場を閉鎖し、チェコにおける鉄道車両製造事業から撤退しました。

一方、タトラカーのライセンスはSKDトレードへと継承され、現在も同社が修理部品の生産を続けています。

主な製品

リングホッファー時代: 皇帝や国王向けの特別車両、プラハ市電向け車両など
タトラ国営会社→ČKDタトラ時代: タトラT1、タトラT3、タトラT6、タトラKT8D5、タトラRT6N1など

関連企業

タトラ＝ユーク: ウクライナの鉄道車両メーカー。ČKDタトラの協力で設立され、当初はタトラカーの同型車両を製造していました。
イネコン・トラム: チェコの鉄道車両メーカー。ČKDタトラの技術者が移籍し、路面電車車両の製造事業に参入しました。
* コンスタル: ポーランドにかつて存在した鉄道車両メーカー。ČKDタトラ製のタトラカーを参考に、自社製の路面電車を開発・製造していました。

ČKDタトラは、その短い生涯の中で、東欧を中心に世界の路面電車史に大きな足跡を残しました。タトラカーは、今もなお多くの都市で活躍しており、その技術とデザインは、後世の路面電車に大きな影響を与え続けています。

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