「っす」体

「っす」体とは何か？：現代日本語における新しい敬語

「っす」体とは、新しい丁寧語である「（っ）す」を用いた日本語の敬体のことです。後輩口調とも呼ばれ、若者を中心に広がりを見せています。しかし、単なる文体としてだけでなく、ジェスチャーや服装を含めたスタイルを指す「ス体」とは異なります。本記事では、「っす」体の詳細な用法、歴史、普及の背景、そしてその評価について解説します。

「っす」体の基本的な用例

従来の丁寧語は、述語の品詞に応じて「ございます」「です」「ます」を使い分ける三系列の構造でした。しかし、「っす」体では、形容詞、名詞、動詞の全てに「（っ）す」が接続されます。例えば、「僕は野球部っす」「毎日忙しいっす」のように、名詞や形容詞にそのまま接続されます。動詞の場合は、「練習するんす」のように準体助詞「の」で名詞化して接続するのが一般的です。

さらに、「こんにちはっす」のように、従来の丁寧語では接続しなかった語にも「（っ）す」が用いられることがあります。また、「忙しいっすか？」のように、「です」「ます」と同様に終助詞を接続することも可能です。

「っす」体の普及の経緯と背景

「（っ）す」という丁寧語がいつ頃から使用され始めたかは正確には分かっていません。しかし、1954年の漫画『サザエさん』には、すでに「す」を用いた台詞が確認されています。1970年代には、運動部の学生や職人の若者が「っす」体を使用していたという証言があります。1990年代には、20代の男性を中心に「（っ）す」の使用が拡大し、2000年代には、体育会系のような組織で女性も使用するようになりました。

専門家は、「っす」体が敬意と親しみを同時に表現できる点を普及の動機として挙げています。従来の敬語は上下関係に基づいて使い分けられていましたが、現在では親疎関係に基づいた使い分けが重視されるようになっています。「っす」体は、この変化に対応した新しいコミュニケーションの形として受け入れられていると考えられます。

「っす」体への評価

日本語話者は敬語に対して保守的な傾向が強く、「っす」体は激しい反発を受けてきました。特に年配の話者からは非難されることが多いですが、若者の中でも否定的な意見があります。例えば、「きたないことばだと思う」「馬鹿にされてるのかと思う」といった厳しい評価も存在します。しかし、このような逆風にもかかわらず、「っす」体は衰退することなく普及し続けています。

その他の用法

「っす」体には、敬意と親しみを同時に表現する以外にも、様々な機能や用法があると指摘されています。

倉持は、「っす」体には使用者の知性を隠蔽する機能があるという仮説を立てています。大学生がアルバイトとして単純労働に従事する場合など、知的なイメージが不利に働く場合に、「っす」体を用いることで敬意を示しつつ、自らの知性を消臭する動機が発生すると考えられます。

また、「ういっす」「うす」「おす」といった挨拶言葉では、「（っ）す」本来の敬意を表現する機能はほぼ失われ、単に親愛の情を示すために使用されていると考えられます。

さらに、「っす」体は体育会系の言葉遣いであるというイメージが強く、体育会系に属する人物であることを示す役割語としても使用されます。男性間性交渉者が出会い系サイトで「（自分は）短髪髭 毛深いっす」のように用いる例もあります。

まとめ

「っす」体は、現代日本語における新しい敬語の形であり、若者を中心に普及しています。その背景には、敬意と親しみを同時に表現できるという特徴があります。しかし、フォーマルな場では不適切とされることも多く、評価は分かれています。今後、「っす」体がどのように変化し、日本語の中でどのような位置を占めるのか、注目されるでしょう。

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