あなた (宇多田ヒカルの曲)

あなた：宇多田ヒカルの普遍的な愛の物語

2017年 12月8日、宇多田ヒカルの8作目の配信限定シングル「あなた」がリリースされました。同曲は、12月9日公開の映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の主題歌として書き下ろされ、公開前から大きな注目を集めました。映画公開と同時にiTunes Store、mora、レコチョクなどで配信が開始されると、Billboard JapanのDownload Songsチャートで2週連続1位を獲得するなど、大きなヒットを記録。2018年度年間ランキングでは第6位にランクインするなど、その人気は不動のものとなりました。

プロジェクトの始まり：映画主題歌へのオファー

主題歌制作のオファーは、『DESTINY 鎌倉ものがたり』の山崎貴監督から宇多田ヒカルへ届いた、想いのこもった手紙から始まりました。宇多田はオファーを快諾し、映画の原作やプロットを熟読。妖怪たちの生き様に共感し、自身の経験と重ね合わせることで楽曲制作へと繋げました。特に、強い情念を持ってこの世を離れられずにいる妖怪の姿に、自身の子育てや母としての経験を重ね合わせ、歌詞の世界観を構築していったといいます。

レコーディング：ロンドンでの協働

レコーディングは2017年夏、ロンドンのRAK Studiosで行われました。「大空で抱きしめて」や「Forevermore」でも共演経験のあるクリス・デイヴ(ドラム)をはじめ、アルバム『Fantome』から参加しているミュージシャンや、本楽曲が初参加となるミュージシャンら、豪華なメンバーが集結しました。宇多田は明確なビジョンを持っており、3、4回のレコーディングで完成にたどり着いたとのこと。各ミュージシャンはそのビジョンを解釈し、それぞれの個性が加わったことで、唯一無二の楽曲が完成しました。

音楽性と歌詞：普遍的な愛の表現

「あなた」は、全編ほぼ生楽器で構成された、ドラマティックな楽曲です。ピアノと歌声から始まり、ドラム、ベース、ストリングス、ブラスと、徐々に楽器が増えていく構成は聴く者を楽曲の世界へ自然と引き込みます。コード進行はシンプルな4コードループですが、そこに重ねられるピアノ、ドラム、ベース、コーラスが、楽曲に深みと奥行きを与えています。

音楽評論家からは、ブルー・アイド・ソウルのスタイルを彷彿とさせるストリングスやブラスの温かみ、RAK Studiosならではの美しい音響、母親の胎内にいるような心地よさなどが指摘されました。宇多田自身も、この曲は「母親目線から音楽的表現をした初めての楽曲」と語っています。歌詞には仏教用語が使用され、サビのリズミカルな韻や「i」の音の散りばめ方など、言葉選びにもこだわりが感じられます。

歌詞の一節「あなた以外なんにもいらない～代り映えしない明日をください」の後に続く「あなたと生きる世界は息をのむほど美しいんだ」という部分に、強い「祈り」を感じると語った又吉直樹との対談は、歌詞に込められた宇多田ヒカルの想いを理解する上で重要なポイントとなっています。幼少期の不安定な環境から生まれた「何も信じないようにしよう」という姿勢と、「望んでいる自分を完全に消しきれず」に生まれた「祈り」という対比は、この楽曲の奥深さを際立たせます。

リリースとプロモーション：多角的な展開

楽曲のリリースと同時に、2018年の国内ツアー開催も発表されました。また、音楽サブスクリプションサービスでは、過去の楽曲の配信も開始。デビュー20周年イヤーということもあり、「あなた」のリリースを記念した様々なイベントが展開されました。ソニーストアでのハイレゾ試聴会、アトレ恵比寿でのコラボキャンペーン、宇多田がレコメンドする書籍を紹介する「宇多田書店」、MUSIC ON! TVでの特集など、多角的なプロモーションが展開されたことが、楽曲の成功を後押ししました。

ライブパフォーマンス：ツアーの幕開け

「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」では、この曲が1曲目として演奏されました。ステージ下からゆっくりと上昇して現れた宇多田ヒカルの歌声は、観客を深い感動に包み込みました。

評価：高く評価された作品

批評家からは、歌詞の完成度、音楽と文学の高密度な融合、宇多田ヒカル独特のユーモア感覚などが評価されました。楽曲全体からは、人間と生命の核心に迫る力強さを感じるとのコメントもありました。

チャート成績：大ヒットの証

Billboard Japan総合チャートでは初登場3位、ダウンロードチャートでは2週連続1位を獲得。オリコン週間デジタルシングルランキングでも初登場1位を獲得するなど、商業的にも大成功を収めました。年間チャートでも上位にランクインし、宇多田ヒカルの代表曲の一つとして確固たる地位を築きました。

ミュージックビデオ：ロンドンスタジオでの撮影

ミュージックビデオは、前作に引き続きジェイミー・ジェイムズ・メディナが監督を務めました。レコーディングに参加したミュージシャンも出演し、ロンドンのRAK Studiosで撮影が行われました。シンプルな演出ながら、宇多田ヒカルのパフォーマンスと楽曲の素晴らしさが際立っており、高い評価を得ています。

「あなた」は、映画主題歌という枠を超え、宇多田ヒカルの音楽キャリアにおける重要な作品であり、多くの人々の心に深く刻まれた名曲と言えます。

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