あまみ型巡視船

あまみ型巡視船：高速性と安全性を両立した海上保安の尖兵

海上保安庁に所属する巡視船として、あまみ型は独自の進化を遂げた船級です。350トン型巡視船の後継として、平成3年度に建造が開始されました。従来の350トン型巡視船を上回る高速性能と、強化された航行性能が求められた結果、25ノットという当時としては異例の高速を達成しました。これは、密漁船や領海侵犯船の高速化への対応、そして災害現場への迅速な到着を可能にするためです。

高速性と安全性へのこだわり

高速性能を実現するため、あまみ型では半滑走型のV型船型が採用されました。さらに、船体の軽量化を図るため、高張力鋼とアルミニウム合金を組み合わせたハイブリッド構造が用いられています。乗員居住区や操舵室を船体中央部に集中配置することで、乗員の疲労軽減にも配慮されています。これらの設計思想は、後の高速巡視船の設計にも大きな影響を与えました。

しかし、アルミニウム合金の使用は、九州南西海域工作船事件で課題を露呈しました。この事件で、あまみ型巡視船「あまみ」は銃撃を受け、アルミニウム合金製の船橋構造物が多数の弾丸を貫通する被害を受けました。この経験から、高速性だけでなく、防御性能の向上が今後の巡視船設計において重要な課題となりました。事件後、「あまみ」の被弾した船橋前面外壁は修理後、海上保安大学校資料館で教育資料として保存・展示されています。

充実した装備と運用

あまみ型巡視船は、20mm多銃身機銃を備えています。当初は手動式でしたが、九州南西海域工作船事件を教訓に、赤外線捜索監視装置と連動した遠隔操縦機能（RFS）を備えたJM61-RFSに換装されました。これは、より正確で安全な射撃を可能にするものです。

また、迅速な警備・救難活動のために、煙突の右舷側に複合艇を搭載し、船尾には5.5メートル型高速警備救難艇のためのスリップウェイを設置しています。これにより、航行中でも迅速に救難艇を展開できます。九州南西海域工作船事件においては、高速警備救難艇が後進全速時に波で損傷を受けましたが、通常運用では問題ないとされています。

九州南西海域工作船事件と「あまみ」

1996年に発生した九州南西海域工作船事件において、「あまみ」は重要な役割を果たしました。その活躍により、乗組員は長官表彰を受賞し、「あまみ」の船橋ウイングには記念プレートが設置されました。通常、巡視船は転属に伴い船名が変更されますが、「あまみ」は、この事件における功績を称え、転属後もその名を維持しました。これは、海上保安庁における特例と言えるでしょう。

あまみ型の系譜と未来

あまみ型巡視船は、高速性と安全性を両立させた設計思想、そして充実した装備によって、日本の海上保安体制に大きく貢献しました。その設計思想は後続の巡視船にも受け継がれ、日本の沿岸警備の強化に繋がって行きました。2022年12月5日には、PM-96「くろかみ」が老朽化のため解役となり、同型船としては初の退役となりました。これは、あまみ型巡視船の時代が終わりつつあることを示唆しています。しかし、その功績は、日本の海上保安の歴史に長く刻まれるでしょう。

主機関

主機関には、SEMT ピルスティク製4サイクルV型16気筒ディーゼルエンジン16PA4V-200VGAを新潟鐵工所がライセンス生産したものが、両舷2軸に各1基搭載されています。推進器は可変ピッチ・プロペラです。これらの組み合わせにより、25ノットという高速を実現しています。

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