いすゞ・ファスター

いすゞ・ファスター：日本のピックアップトラック史に名を刻む一台

いすゞ自動車が1972年から2016年まで製造販売していたピックアップトラック、「ファスター」。その歴史は、いすゞとGMの提携、そして日本の自動車産業の変遷と深く関わっています。本稿では、3代にわたるファスターの系譜をたどりながら、その特徴や歴史的意義を紐解いていきます。

初代ファスター (1972年-1980年)：いすゞとGM提携の幕開け

初代ファスターは、それまでの「ワスプ」の後継車として登場しました。開発にあたっては、いすゞの乗用車「ベレット」のプラットフォームを流用。フロントデザインは、同社の乗用車「フローリアン」と共通性が見られます。

この初代ファスターは、1971年から始まったいすゞとGMの提携における最初のビジネス成果となりました。翌1972年から、GMのシボレーブランドを通じて北米市場に「LUV（Light Utility Vehicle）」という名称でOEM供給されました。これは、ファスターの開発と販売戦略において重要な転換期となりました。1978年には、4WDモデル「ファスターロデオ4WD」が追加され、市場における競争力を高めました。

2代目ファスター (1980年-1988年、KB型)：多様な展開

1980年、フローリアンの生産終了を目前に控え、ファスターはフルモデルチェンジを果たしました。2代目ファスターは、「ファスターロデオ4WD」のシャシをベースに開発され、北米市場では「パップ」(P'up) の名称で販売されました。

この世代では、北米市場向けに供給されていたシボレーLUVは、GMが独自開発したS-10に置き換えられました。一方、オーストラリアでは、GM子会社のホールデンを通じて「ホールデン・ロデオ」としてOEM供給が開始され、グローバル市場におけるいすゞの存在感を示しました。

搭載エンジンは、当初は1.6Lガソリンエンジンと1.8Lディーゼルエンジンが用意されていましたが、後にガソリンエンジンは廃止され、2.3Lディーゼルエンジンへと排気量アップされました。

3代目ファスター (1988年-2016年、TF型)：日本市場からの撤退とグローバル展開

1988年、ファスターは2WDモデル専用の車名となり、4WDモデルは「ロデオ」として独立しました。日本市場ではシングルキャブのみの設定でしたが、海外市場向けには、大きな窓を持つ「スペースキャブ」と呼ばれるエクステンドキャブもラインナップされました。

海外市場では、直列4気筒ディーゼルエンジンに加え、いすゞ製とGM製のV6ガソリンエンジンも選択可能でした。日本市場では、4JB1型2.8L直噴ディーゼルターボエンジンを搭載。このエンジンは、燃費性能と出力性能を両立した優れたパワートレインとして評価され、それまでのファスターの非力なイメージを払拭することに成功しました。特に、小径ボア直噴式燃焼室の設計は技術的に非常に難しく、トヨタの12H-T型エンジンと並ぶ国産最小クラスの直噴ディーゼルエンジンでした。

ボディタイプは、標準ボディに加え、ロングボディとフラットデッキ三方開きも用意されていました。1992年にはフェイスリフトを実施。しかし、1994年には日本国内での販売を終了しました。その後も海外向けは継続生産され、2002年にD-MAXが登場した後も、2016年まで生産が続けられました。

車名の由来と結びついた歴史

シボレー向けに用いられた「LUV」は「Light Utility Vehicle」の略で、ファスターの車種としての役割を表しています。この名称からも、ファスターが、いすゞとGMの提携関係、そしてグローバルなピックアップトラック市場において重要な役割を果たしてきたことが分かります。

ファスターは、その存在期間を通じて、日本の自動車産業、そしてグローバルな自動車市場における変化を反映してきたと言えるでしょう。その歴史は、日本のピックアップトラック史において重要な一ページを飾っています。

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