いず (巡視船・2代)

海上保安庁巡視船「いず」：災害対応と高度な救難機能を備えた多目的艦

1995年の阪神・淡路大震災は、海上保安庁の災害対応能力に課題を突きつけました。陸上施設の被害による指揮系統の混乱、陸路遮断時の海上からのアプローチの重要性などが浮き彫りになり、新たな災害対応型巡視船の必要性が認識されました。この教訓を踏まえ、建造されたのが巡視船「いず」(JCG Izu, PL-31)です。

「いず」の建造背景と役割

「いず」は、単なる巡視船の枠を超えた、多様な任務に対応可能な艦艇として設計されました。大規模災害発生時には、現場指揮所として機能する高度な通信設備と、被災地への迅速な救援物資輸送能力を備えています。さらに、第三管区海上保安本部の救難強化巡視船として、「潜水指定船」にも指定されており、潜水士の配置、潜水支援機材、ROV（遠隔操作無人探査機）、海底地形探査用ソナーといった、高度な水中捜索能力も有しています。

艦船の設計と性能

「いず」は、全通甲板を備えた長船首楼型船型で、船首にはバルバスバウを採用し、優れた航海性能を実現しています。船殻構造は、船側構造に横肋骨方式、甲板構造に縦肋骨方式（下甲板のみ横肋骨方式）を採用し、船首楼甲板・船首楼部外板、後部上甲板には高張力鋼が使用されています。

主機関は、SEMT ピルスティク社製の8PC2-6Lディーゼルエンジン（新潟鐵工所ライセンス生産）を搭載し、可変ピッチ・プロペラ（CPP）とバウスラスターを備えています。これにより、ROV運用時や入出港時など、精密な操船が求められる場面でも高い機動性を発揮します。大消費電力を賄うため、ディーゼル発電機3基を主電源とし、停泊時、航海時、入出港時で運転基数を調整するシステムを採用。非常用電源としてディーゼル発電機1基と蓄電池も搭載しています。

高度な指揮・統制システムと災害対応機能

「いず」の操舵室は、操船、指揮、統制に関する区画をワンフロアに配置する新コンセプトを採用。従来の約2倍の広さを確保し、機関監視区画、航空管制区画、通信区画、OIC（On-Scene Incident Commander）区画などを配置、区画間の壁をなくすことで連携を強化し、任務遂行効率の向上を図っています。

OIC区画内には専用通信機を備えた災害対策本部用区画を設け、船橋甲板には特別公室兼小会議室も備えています。船首楼甲板前部には大会議室があり、必要に応じて小区画に分割し、病室や被災者用船室などとして多目的に使用可能です。

災害医療に対応するため、医務室、病室、X線撮影室を備え、簡易血球計算機、超音波検査装置なども搭載。手術台2基、酸素吸入・気管内吸引装置なども備え、緊急手術にも対応できます。船内は被災者や救援要員の収容を考慮した設計で、広々とした通路、最大120名収容可能な21室の予備室、160名分の給食能力を持つ調理室などを備えています。

ヘリコプター甲板は、大型ヘリコプターの発着にも対応し、コンテナ搭載も可能です。救援物資約360トンの搭載スペースと、大型クレーン1基、雑用クレーン2基を備えています。

優れた水中捜索救難機能

「いず」は、潜水士の配置、ROV、超音波海中捜索装置（海底地形探査用ソナー）を備え、高度な水中捜索能力を有しています。ROVはランチャー・ビークル方式を採用し、200メートルの水深に対応、半径100メートル以内で活動可能です。超音波海中捜索装置は、ROVや潜水士による捜索活動の前に海底状況を把握するために使用されます。これらの装備は、九州南西海域工作船事件での沈没工作船の位置特定など、実際の現場でその能力を発揮しました。

メディアへの登場

「いず」は、映画『BRAVE HEARTS 海猿』やアニメ『名探偵コナン 水平線上の陰謀』など、多くのメディア作品にも登場し、その存在感を示しています。

まとめ

巡視船「いず」は、災害対応、高度な救難機能、そして優れた水中捜索能力を兼ね備えた、まさに多目的艦艇です。その高い能力は、日本の海上保安体制に大きな貢献を果たしています。

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