いちまる (スーパーマーケット)

スーパーマーケット『いちまる』：帯広を舞台にした地場スーパーの興亡記

1955年、北海道帯広市に「加藤商店」として創業した『いちまる』。地域に密着したスーパーマーケットとして発展を遂げ、一時は帯広を代表する企業として知られました。しかし、時代の流れと業界再編の波に乗り切れず、2021年にはその名を歴史の表舞台から消すことになります。本稿では、『いちまる』の盛衰を、その歴史、他社との提携、そして事業譲渡という三つの側面から詳細に紐解きます。

1. 地場スーパーとしての成長：創業からラルズとの提携まで

『いちまる』の前身は、1955年に創業した「加藤商店」です。1969年、セルフサービス方式への転換を機に「一丸センター」と改称し、スーパーマーケットへと業態転換しました。創業家の加藤家の家紋をモチーフにした「一○」のロゴマークも、この際に誕生しました。

初期は資金繰りに苦戦したものの、帯広商工会議所会頭も務めた宮本義雄氏らの支援を受け、経営を立て直しました。その後、帯広市内への積極的な店舗展開を行い、「福原」、「ダイイチ」、「オーケー」といった既存の有力スーパーマーケットと肩を並べる存在に成長しました。これらの企業とは、商圏を事実上分けることで過当競争を避け、共存共栄の関係を築いていたと言われています。1999年には、北海道内のスーパーマーケット上位20社に帯広地区の3社（『いちまる』、『フクハラ』、『ダイイチ』）がランクインする成果を上げました。

『いちまる』は、デビットカードの導入や深夜営業といった新しい営業スタイルにも積極的に取り組んでいました。しかし、他社との競争激化に伴い、新たな戦略が必要となりました。2000年には、ラルズとの資本・業務提携を発表。ラルズが『いちまる』の株式の20％を取得し、共同で「ビッグハウス」の出店を目指しました。この提携は、『ラルズ』の帯広地区への進出を意味し、競合他社に大きな衝撃を与えました。

2. 複雑な業界再編：ラルズとの提携解消とダイイチとの提携

しかし、ラルズと『フクハラ』が経営統合することで「アークス」を設立すると発表したことで、状況は一変します。ラルズから『いちまる』への経営統合への具体的な条件提示がなく、『フクハラ』との統合に先んじて参加することは事実上『フクハラ』の傘下に入ることを意味したため、『いちまる』は「アークス」への参加を見送りました。

その後、『いちまる』はラルズとの提携を解消し、2005年には全日本食品と業務提携、2011年にはダイイチと資本・業務提携を結びました。地場資本スーパーの連合による共同仕入れなどで大手に対抗する戦略を立てましたが、ダイイチがイトーヨーカ堂との資本・業務提携を発表したことで、『いちまる』の戦略は頓挫します。

3. マックスバリュ北海道への事業譲渡とブランド消滅

2013年、『いちまる』はマックスバリュ北海道と資本・業務提携を発表。マックスバリュ北海道が筆頭株主となりました。この提携により、「トップバリュ」や「WAON」の導入が進みました。しかし、2015年には『いちまる』のスーパーマーケット事業はマックスバリュ北海道に譲渡され、14店舗がマックスバリュ北海道に引き継がれました。

マックスバリュ北海道は、一部店舗を「マックスバリュ」に転換、一部を閉店しました。2020年にはマックスバリュ北海道がイオン北海道に吸収合併された結果、「いちまる」の店舗は1店舗のみとなりました。そして、最後の1店舗も2021年に閉店し、店舗名としての「いちまる」は消滅しました。

4. 企業としての「いちまる」のその後

企業としての「いちまる」は、2019年にルーキーファームに吸収合併されました。現在は「株式会社いちまるホールディングカンパニー」として、味想百盛（食品企画・販売）、ルーキーファーム（飲食店・100円ショップ等）、いちまるエステートサービス（不動産管理）など、複数の関連会社を傘下に持つ持株会社として存続しています。

かつて帯広の地に根付き、地域住民に愛されたスーパーマーケット「いちまる」。その歴史は、激動のスーパーマーケット業界における地場企業の生き様を物語る、一つの事例として記憶されることでしょう。

もう一度検索