いとしのジザベル

ザ・ゴールデン・カップスの輝かしい音楽活動の幕開けを飾った楽曲が、1967年 6月15日にシングルとしてリリースされた「いとしのジザベル」です。この作品は、彼らにとって初のレコードであり、文字通りプロフェッショナルとしてのキャリアの出発点となりました。当時、日本の音楽シーンで大きな盛り上がりを見せていたグループ・サウンズ（GS）の中でも、ザ・ゴールデン・カップスはその卓越した演奏技術と、ソウルフルなサウンド、そしてどこか異国の香りが漂う雰囲気を持ち合わせており、特別な存在感を放っていました。「いとしのジザベル」は、そんな彼らの多様な魅力を凝縮したデビュー作として位置づけられます。

制作陣と楽曲の特徴

この記念すべき楽曲の制作には、当時の日本の音楽界を代表するクリエイターたちが携わりました。

作詞: 言葉の選び方で情景を鮮やかに描き出すことに長け、後に数々のヒットソングを生み出すことになる稀代の作詞家、なかにし礼氏が歌詞を手掛けました。情感豊かでドラマチックな歌詞は、楽曲の世界観を深く彩っています。
作曲・編曲: キャッチーでありながらも洗練されたメロディメイカーとして知られる作曲家であり、編曲家としても活躍した鈴木邦彦氏が、楽曲の旋律とアレンジを担当しました。当時の最先端のサウンドを取り入れた編曲は、楽曲に力強さと奥行きを与えています。

なかにし礼氏の詩情あふれる言葉と、鈴木邦彦氏のモダンなメロディ・アレンジが融合し、ザ・ゴールデン・カップスならではの個性的なサウンドと見事に調和しました。

楽曲を特徴づける大きな要素の一つに、メンバーによる分厚いコーラスワークがあります。リードボーカルのデイヴ平尾氏に加え、ギタリストのエディ藩氏、そしてベーシストのケネス伊東氏という3人のメンバーがコーラスパートを担当しました。彼らの息の合ったハーモニーと、個々の歌唱力が組み合わさることで、楽曲はより情感豊かに、そして力強く響きます。特に、ザ・ゴールデン・カップスが生み出すサウンドには、彼らが活動拠点としていた横浜のクラブシーンで培われたブルースやソウルの影響が色濃く反映されており、そのルーツを感じさせるコーラスワークも「いとしのジザベル」の魅力となっています。

商業的な成功と影響

「いとしのジザベル」は、リリースされるやいなや多くのリスナーの支持を集め、商業的にも大きな成功を収めました。公称では18万枚というセールスを記録し、これはデビューシングルとしては破格の数字であり、大ヒットと言えるものでした。この成功により、ザ・ゴールデン・カップスの名前は広く知られるようになり、日本の人気バンドとしての地位を確固たるものにしました。この楽曲のヒットは、その後の彼らの音楽活動にとって大きな弾みとなり、さらに精力的なリリースやライブ活動へと繋がっていきます。

日本語歌唱への挑戦とエピソード

ザ・ゴールデン・カップスのメンバーは、デビュー前、主に横浜のクラブなどで英語の楽曲を演奏していました。そのため、プロとして日本語の楽曲を歌うことになった当初は、その表現方法に慣れず、試行錯誤があったと伝えられています。特にリードボーカルのデイヴ平尾氏は、日本語での歌唱スタイルを確立する上で、同じレコード会社（東芝音楽工業）に所属していた先輩歌手、坂本九氏の歌唱を参考にしたという興味深いエピソードが残されています。情感豊かに歌い上げる坂本九氏の表現が、彼らに日本語の歌唱における新たな示唆を与えたのかもしれません。このエピソードは、彼らが常に最高の音楽表現を追求していた姿勢を物語っています。

B面曲「陽はまた昇る」

「いとしのジザベル」のシングル盤のB面には、「陽はまた昇る」が収録されています。この楽曲もA面と同様に、作詞をなかにし礼氏が、作曲・編曲を鈴木邦彦氏が手掛けています。B面曲でありながらも、ザ・ゴールデン・カップスの優れた演奏力と歌唱力が存分に発揮された完成度の高い楽曲であり、A面曲とはまた異なる魅力を持っています。シングル全体として、ザ・ゴールデン・カップスが満を持して世に放った、彼らの音楽的なポテンシャルを示す一枚と言えるでしょう。

「いとしのジザベル」は、ザ・ゴールデン・カップスという、日本の音楽シーンにおいて独自の足跡を残したバンドの歴史を語る上で、欠かせない一曲です。彼らの伝説はこの楽曲から始まり、多くのフォロワーに影響を与えました。時代を超えて愛される名曲として、今もなお多くの音楽ファンの耳に響き続けています。

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