デイヴ平尾

日本のポピュラー音楽史において、グループ・サウンズ（GS）を代表するバンド、ザ・ゴールデン・カップスのリーダーとして知られる歌手、俳優です。本名は平尾時宗（ひらおときむね）。時に「時坊（トキボウ）」の愛称でも親しまれました。公式には1944年 11月17日生まれですが、プロデビュー時に所属事務所の意向で1945年生まれと公表していた時期があり、その名残で現在もそのように記されることがあります。これは、バンドメンバーのルイズルイス加部も同様に生年を偽っていたことからも、当時の業界事情をうかがい知ることができます。

平尾は1944年、神奈川県横浜市に生まれ育ちました。実家は外国航路の船員を専門とするクリーニング店を営んでおり、幼い頃から港町の文化や様々な人々との交流に触れる環境にありました。音楽への関心は、実姉の影響が大きかったと言われています。日劇ウエスタンカーニバルに通い、多くの音楽やパフォーマーに刺激を受けました。学生時代には、神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校在学中に、当時世界的に人気を博していたビートルズのスタイルを取り入れたバンドを結成。日本大学へ進学後も、神奈川大学の友人とバンド活動を続け、音楽への情熱を深めていきました。

大学在学中には、一時アメリカ合衆国への放浪の旅に出ます。この異文化体験は、彼のその後の人生に大きな影響を与えました。ホームステイ先の子どもが、平尾の容姿が俳優のデビッド・ジャンセンに似ていると感じ、「デイヴ」と呼び始めたことが、芸名「デイヴ平尾」の由来となったというエピソードはよく知られています。また、この渡米中に、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズのコンサート会場とされる場所で偶然エディ藩と出会い、帰国後に共にバンドを組む約束を交わします。この約束に基づき、帰国した平尾はメンバーを集め始めますが、集まったのはアマチュアでドラム経験がほとんどないマモル・マヌー、ギターは弾けるがベースに触ったこともないルイズルイス加部といった面々でした。エディ藩、ケネス伊東を加えて結成されたこのバンドは、当初「平尾時宗とグループ・アンド・アイ」と名乗り、地元横浜・本牧の伝説的なクラブ「ゴールデン・カップ」のレギュラーバンドとして活動を開始します。これが、やがてザ・ゴールデン・カップスとして日本のロックシーンに名を刻むことになるバンドの母体となったのです。

1967年、ザ・ゴールデン・カップスのリーダーとして東芝音楽工業からプロデビューを果たしました。彼らの革新的なサウンドとパフォーマンスは、当時のGSブームの中でも異彩を放ち、多くのファンを魅了しました。バンドは1971年に惜しまれつつ解散しますが、平尾はその後も音楽活動を継続し、ソロ歌手、そして俳優としても活動の幅を広げます。ソロ歌手としては、シングルやアルバムを発表。特にソロデビューシングル「僕達の夜明け」のB面に収録された楽曲「一人」は、人気テレビドラマ『傷だらけの天使』の後期挿入歌として使用され、広く知られるようになりました。俳優としても、テレビドラマ『悪魔のようなあいつ』（1975年、TBS）などに出演し、その存在感を示しました。

音楽への深い愛情から、1982年から2000年までの約18年間、東京・六本木に自身のライブハウス「ゴールデン・カップ」を開店。オーナーとして経営に携わる傍ら、専属歌手としてステージに立ち、ザ・ゴールデン・カップス時代の楽曲をはじめとした自身の音楽を披露し続けました。また、1985年にはTVKテレビの情報番組『カフェシティ・ヨコハマ』で司会を務めるなど、マルチな才能を発揮しました。

2003年、ザ・ゴールデン・カップスの軌跡を追ったドキュメンタリー映画『ザ・ゴールデン・カップスワンモアタイム』が製作されたことを契機に、バンドは本格的な活動を再開。デイヴ平尾はリーダーとして再びマイクを握り、テレビの音楽番組への出演や精力的なライブ活動を展開し、健在ぶりを示しました。しかし、2008年、食道がんの療養中に容体が急変。同年11月10日、心不全のため63歳で急逝しました。日本の音楽界にとって大きな損失でした。

彼の死後、2009年 1月25日には、横浜で盛大な追悼パーティが開催されました。ザ・ゴールデン・カップスのメンバーをはじめ、沢田研二、岸部一徳といったミュージシャン仲間、関係者、そして多くのファン、約650人が集結。6時間半にわたり、故人の思い出を語り合い、その功績を称えました。奇しくもこの同じ日、GS時代の盟友である元ザ・テンプターズのドラマー、大口広司もこの世を去っています。デイヴ平尾は、その波乱万丈な生涯を通じて、日本のロックシーンに確固たる足跡を残した偉大なミュージシャンでした。

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