いのちぼうにふろう

『いのちぼうにふろう』は、山本周五郎の短編小説「深川安楽亭」を原作とし、1971年9月11日に封切られた日本の時代劇映画です。クレジットタイトルでは『いのち・ぼうにふろう』と表記されています。監督は黒澤明作品の助監督などを経て、独自の作家性を確立した小林正樹が務め、主演の仲代達矢の妻である宮崎恭子が「隆巴」名義で脚色を担当しました。

物語の舞台は19世紀、江戸時代の深川。体制からの干渉を嫌い、密かに暮らす密貿易に関わる人々が物語の中心となります。彼らは公権力から常にその動向を注視されていますが、自らに課した不文律にのみ従い、見返りを求めず他者のために自らの命を賭ける道を選ぶ、そんな彼らの刹那的な生き様が描かれます。

舞台となるのは、江戸・深川の湿地帯を埋め立ててできた「島」と呼ばれる一画。大名の下屋敷を囲む濠と沼に隔絶されたその場所に、安楽亭という名の店があります。店は表向き、幾造とその娘おみつが切り盛りする居酒屋ですが、その実態は密貿易の集荷所であり、部外者が安易に立ち入れば命の保証はない危険な場所でした。ここでは、危険と隣り合わせの生業に身を置く無頼の徒たちが、明日の命も知れぬ身ゆえか、刹那的で享楽的な日々を送っています。

島の外、唯一の橋のたもとからは、八丁堀同心の金子と岡島が監視の目を光らせ、「いずれは一網打尽にしてくれる」と虎視眈々と機会を窺っていました。そんな中、ある夜、店の常連である与兵衛が、やくざ者に酷く打ちのめされ意識不明となった若い男を連れて帰ります。彼に付き添っていたのは、短刀の扱いに長ける定七でした。定七自身も、以前の件で仲間を失い、傷を負っていました。

本作はモノクロ、シネマスコープで撮影されており、小林正樹監督らしい重厚な画面作りが見られます。その評価は高く、第45回キネマ旬報ベスト・テンでは第5位に選出されました。公開当時の併映は、中平康監督、麿赤児主演の『闇の中の魑魅魍魎』でした。

本作のキャストは非常に豪華です。

定七: 仲代達矢
おみつ: 栗原小巻
富次郎: 山本圭
おきわ: 酒井和歌子
幾造: 中村翫右衛門
与兵衛: 佐藤慶
由之介: 岸田森
源三: 草野大悟
文太: 山谷初男
政次: 近藤洋介
仙吉: 植田峻
八丁堀同心・金子: 神山繁
八丁堀同心・岡島: 中谷一郎
灘屋の小平: 滝田裕介
男: 勝新太郎
その他: 三島雅夫

主要なスタッフは以下の通りです。

原作: 山本周五郎「深川安楽亭」
脚本: 隆巴
製作: 佐藤正之、岸本吟一、椎野英之
音楽: 武満徹
撮影: 岡崎宏三
美術: 水谷浩
装飾: 荒川大
録音: 西崎英雄
音響: 本間明
照明: 下村一夫
編集: 相良久
衣裳: 上野芳生
* 監督: 小林正樹

製作は東宝と俳優座映画放送が手掛けました。

なお、同じ山本周五郎の原作「深川安楽亭」は、1982年に『地獄の掟』というタイトルでテレビドラマ化されています。こちらの主演も映画版と同じ仲代達矢ですが、演じた役柄は映画版の定七ではなく、幾造役でした。

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