中平康

中平康：映像表現の魔術師、そしてその波乱の生涯

中平康（1926年-1978年）は、日本の映画監督として、その類まれな才能と波乱に満ちた人生で知られています。香港では楊樹希（ヤン・スーシー）の名で活動し、洋画家の高橋虎之助を父に持ち、作家の中平まみを娘に持つ芸術一家に育ちました。増村保造、岡本喜八らと共に「モダン派」と称され、数々の名作を残した中平康の生涯を紐解いていきます。

生い立ちと助監督時代

東京に生まれた中平は、芸術一家の中で育ち、幼少期から映画に没頭しました。特にルネ・クレール監督作品を熱心に研究し、その影響は後の作風にも色濃く反映されています。高知高等学校卒業後、東京大学文学部美術科に入学しますが中退。川島雄三監督に憧れ、松竹大船撮影所の助監督に応募し、1500人もの応募者の中から8名に選ばれ、映画界への道を歩み始めます。

松竹では、川島雄三、黒澤明をはじめとする巨匠たちの助監督を務め、その経験は彼の映画監督としての基礎を築きました。他の助監督が脚本に重点を置く中、中平は編集技術にも精通することを主張しており、後の彼の映像技術へのこだわりを垣間見ることができます。また、この頃からベレー帽をトレードマークとして愛用していました。

その後、日活に移籍し、新藤兼人ら著名な監督のもとで助監督として経験を積みました。

日活時代：娯楽映画から新境地へ

1956年、プロデューサーの水の江滝子に見出され、助監督ながら『狙われた男』で監督デビューを果たします。続く『狂った果実』の大ヒットで、石原裕次郎をスターダムに押し上げた中平は、その後も精力的に作品を制作します。『牛乳屋フランキー』や『誘惑』など、軽妙洒脱なタッチの作品から、『殺したのは誰だ』や『紅の翼』といったサスペンス作品まで、幅広いジャンルに挑戦しました。

中平は、ルネ・クレールやビリー・ワイルダーに影響を受け、独自の映像技術を駆使した作品を次々と発表しました。しかし、娯楽映画やスターシステムを重視する彼の作風は、テーマ性や社会性を求める映画評論家からは理解されず、批判を受けることも少なくありませんでした。それでも、彼は常に「映画ありき」の姿勢を貫き、吉永小百合も「一番恐い監督だった」と語るほど厳格な演出で知られていました。

1964年の『月曜日のユカ』は、彼の才能を改めて示す作品となりましたが、映画賞とは無縁でした。日活のスターシステムが確立されていく中、中平は次第に制作現場での飲酒問題なども抱え、1968年には日活を解雇されます。これは、堀社長との確執が原因だったと言われています。

独立プロ時代と晩年

日活解雇後、中平は中平プロダクションを設立し、独立プロとして活動を始めます。1971年の『闇の中の魑魅魍魎』はカンヌ国際[[映画祭]]に選出され、大きな話題となりますが、受賞は逃しました。その後も、『混血児リカ』シリーズや、オールフランスロケの『変奏曲』などを制作します。しかし、晩年はアルコール依存や健康問題に苦しみ、映画界から遠ざかり、テレビドラマの演出などを手がけます。1978年、胃癌のため52歳で死去しました。

中平康の映画：映像技術とキャスティング

中平康は「テクニックの人」と呼ばれ、早回しや画面の縮小など、斬新な映像技術を駆使したことで知られています。また、彼の独特なキャスティングセンスも注目に値します。岡本太郎や東郷青児といった著名な芸術家を本人役で出演させたり、銀座のバーで知り合ったホステスを映画に出演させたりするなど、予想外のキャスティングで作品に深みを与えています。

再評価と影響

没後、中平康の作品は再評価され、回顧上映なども行われています。彼の洗練された映像技術と、娯楽性を重視する作風は、現代の観客にも新鮮に映るかもしれません。日活黄金期を代表する監督の一人として、中平康は日本の映画史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、今もなお、多くの映画ファンを魅了し続けています。

参考文献

中平まみ『ブラックシープ 映画監督「中平康」伝』（ワイズ出版）
田山力哉『市川雷蔵かげろうの死』（社会思想社）
* その他多数

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