ういろう (薬品)

外郎（ういろう）：歴史と伝統を受け継ぐ小田原の秘薬

神奈川県小田原市に拠点を置く外郎家は、室町時代から続く歴史を持つ製薬家です。同家が製造販売する『ういろう』は、仁丹に似た形状の、口中清涼・消臭効果を持つ大衆薬として知られています。別名『外郎薬』や『透頂香』とも呼ばれるこの薬は、その歴史と由緒から、単なる薬以上の価値を持っています。

中国皇帝と元朝の外交官：ういろうの起源

ういろうの起源は、中国にまで遡ります。皇帝の冠にまとわりつく汗臭さを消すために用いられていたという説があり、その効果は古くから認められていました。14世紀、元朝の滅亡後、旧元朝の外交官であった陳宗敬が日本へ亡命したことが、ういろうと日本の関わりのはじまりと言われています。陳宗敬は明の建国者・朱元璋と敵対した陳友諒の一族とされ、博多に亡命後、日明貿易に携わったとされています。彼を介して、この薬が日本に伝わり、彼の名にちなんで「外郎」と呼ばれるようになったと考えられています。

室町時代から続く外郎家：京都と小田原

室町時代には、陳宗敬の子・宗奇が室町幕府の庇護を受け、京都でういろうの製造販売を開始。京都外郎家として、その伝統は受け継がれていきました。京都の公家日記『吉田家日次記』には、1402年（応永9年）に陳外郎が京都で医業に従事したという記録が残っています。4代目祖田は、足利義政の治世下で活躍し、桂庵玄樹、亀泉集証ら文化人との交流も知られています。

戦国時代、1504年（永正元年）、祖田の子とされる宇野定治（定春）を家祖とする小田原外郎家が成立しました。北条早雲に招かれた定治は、小田原でもういろうの製造販売を始めることとなります。小田原外郎家の当主は代々宇野藤右衛門を名乗り、後北条氏から所領を与えられ、御用商人としての地位を確立しました。後北条氏滅亡後も、豊臣家、江戸幕府と庇護を受け続けました。

江戸時代と近代：万能薬としての評判

江戸時代には、去痰薬をはじめ、万能薬として広く知られるようになり、東海道・小田原宿の名物として、『東海道中膝栗毛』などにも登場します。歌舞伎十八番の一つ「外郎売」は、ういろう売りに身をやつした曾我五郎が薬効を説く場面で有名ですが、これは外郎家の行商を題材にした創作です。

関東大震災で店舗が倒壊するも再建され、太平洋戦争下の企業統合にも耐え、現在も外郎家薬局で販売されています。購入には薬剤師の相談が必要な点に、歴史ある薬の伝統と、その希少性が見て取れます。現在、京都外郎家は断絶していますが、小田原外郎家は株式会社として、その歴史と伝統を今も受け継いでいます。

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