うしかい座イオタ星

うしかい座ι星（イオタ星）

うしかい座ι星、またはうしかい座21番星と呼ばれる天体は、地球からおよそ95光年離れた位置にある連星系です。

この星はラテン語で「ロバの2番仔」を意味するアセルス・セクンドゥス（Asellus Secundus）という固有名で呼ばれています。古代には、「ハイエナの仔」を意味するAulād al Dhiʼbah（أولاد الضّباع）という星の並びの一部と見なされており、うしかい座のθ星やκ星と共に「ロバの仔」として認識されていました。中国の星官体系においては、「天槍」という星官を構成する二番目の星として、天槍二（Tiān Qiāng èr）と呼ばれています。

うしかい座ι星は、約39秒角離れた位置にあるHD 234121と呼ばれる恒星と、物理的に結びついた連星系を形成しています。

この連星系の主星が、視等級4.75等で輝くうしかい座ι星そのものです。主星は白色のA型主系列星に分類されます。20世紀初頭から明るさの変化が指摘されていましたが、1980年にたて座δ型変光星を探索する中で、その変光が明確に確認されました。以来、たて座δ型変光星の一つとして扱われており、明るさは概ね4.73等から4.78等の間で変動し、その周期は約38分と非常に短い時間で安定しています。

伴星のHD 234121は、視等級が7.33等のK1型主系列星です。主星であるうしかい座ι星とHD 234121は、共通の固有運動を示していることから、単に空の同じ方向に見えるだけでなく、互いの重力によって結びついた真の連星であると考えられています。両星間の実際の距離は、およそ1100天文単位（AU）と推定されており、互いの周りを公転する周期は2万年を超える長い時間を要すると推測されています。

さらに、ワシントン重星カタログには、うしかい座ι星から約90秒角離れたところに存在する14等級の暗い天体も記録されています。しかし、この天体はうしかい座ι星とは異なる固有運動を示しているため、連星系の一員ではなく、単に見かけ上近くに見えるだけの重星であると考えられています。

このように、うしかい座ι星は、固有の名前や文化的な背景を持つだけでなく、伴星とのダイナミックな関係や、主星自身の興味深いたて座δ型変光星としての性質など、多様な側面を持つ天体です。

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