おおすみ正秋

大隅正秋（おおすみまさあき）氏は、日本のアニメーション界に多大な貢献を果たした演出家、映画監督である。1934年、兵庫県芦屋市に生まれ、幼少期から芸術に親しむ環境で育つ。兄とともに「神戸人形芸術劇場」を主宰するなど、人形劇の世界で経験を積んだ後、東京ムービーに参加。これが、彼のアニメーション界への本格的な進出のきっかけとなった。

初期の東京ムービー時代には、『オバケのQ太郎』や『パーマン』、『怪物くん』などのテレビアニメで演出を担当し、独特の演出センスを発揮した。特に、『ルパン三世 (TV第1シリーズ)』では、初期エピソードの演出を担い、その都会的でスタイリッシュな映像表現、そして既存のアニメーション制作の枠組みを覆すような、ピカレスクかつシニカルな世界観で注目を集めた。しかし、当時の制作体制や視聴率の低迷などを理由に降板することとなる。その後、『ムーミン』の演出にも携わったが、原作からの逸脱や制作上の問題から、途中降板を余儀なくされた。これらの経験は、彼の後年の作品に影響を与えたことは間違いない。

東京ムービー退社後はフリーランスとして活動を開始。日本テレビ動画の『アニメドキュメント ミュンヘンへの道』、創映社の『ラ・セーヌの星』や『ろぼっ子ビートン』、NHKの『子鹿物語』など、幅広いジャンルの作品で監督や演出を務めた。また、『劇団飛行船』では「マスクプレイミュージカル」と称する着ぐるみミュージカルにも携わり、その才能を様々な分野で開花させた。1992年には劇場用アニメ映画『走れメロス』を監督・脚本を務めるなど、その活躍は多岐に渡る。

大隅氏の演出手法は独特で、高畑勲氏と同様に絵コンテを描かず、口頭で演出指示を行うことで知られる。『走れメロス』の制作に携わった沖浦啓之氏は、この手法を実質的に絵コンテを担当する経験として捉え、自身の大きな転機になったと語っている。

技術革新にも積極的に取り組んでおり、1996年には世界初のバーチャルアイドル「伊達杏子」の開発にも携わった。さらに、2003年には漫画家・モンキー・パンチ氏と共に東京工科大学大学院に入学し、コンピューターアニメーションを研究。2005年には同大学院を修了し、片柳研究所のクリエイティブアドバイザーに就任するなど、常に新しい技術や表現方法を探求し続けている。

アニメーション監督の富野由悠季氏とは親交が深く、『ムーミン』や『ラ・セーヌの星』などで共に仕事をした経験を持つ。富野氏も大隅氏を高く評価しており、互いに刺激を与え合う関係にあったと言えるだろう。

大隅正秋氏のキャリアは、日本のアニメーション史に大きな足跡を残している。彼の作品は、その斬新な発想と確かな技術によって、多くのファンを魅了し続けている。人形劇から始まり、テレビアニメ、劇場アニメ、そしてバーチャルアイドル開発と、常に新しい挑戦を続ける彼のクリエイティブな姿勢は、後進のクリエイターたちにも大きな影響を与え続けている。彼の活動は、今後もアニメーション界の進化に貢献していくことだろう。

もう一度検索