おたばこぼん

「お煙草盆（おたばこぼん）」という言葉は、複数の異なる意味合いを持つ語です。

まず、本来の意味としては、かつて日本で煙管（きせる）が広く用いられていた時代に、喫煙に必要な一連の道具、すなわち煙管本体に加え、火をつけるための火入（ひいれ）や、吸い殻や灰を捨てるための灰吹（はいふき）などをまとめて収めておくために使われた盆を指します。これは、現代の灰皿に近い役割と、複数の道具を整理・携帯する機能を兼ね備えたものでした。

次に、場所によっては独特な隠語としても用いられました。特に花街（かがい）、いわゆる遊廓や料亭などが集まる地域において、「お煙草盆」は「でしゃばり」な人物、主に客が来るといつまでも座敷に居座って下がらない女中などを指す言葉として使われたと伝えられています。これは、喫煙具であるお煙草盆が、お客様が訪れるたびに座敷に持ち出され、そのまま客が帰るまで置きっぱなしにされる様子から、その場に居座り続ける様子を重ね合わせて生まれた比喩的な表現と考えられています。

そして、もう一つの意味として、「お煙草盆」は日本の伝統的な髪型である日本髪の一種を指す名称でもあります。この髪型は、特に明治時代の初め頃から見られるようになり、主に2歳から3歳程度のごく幼い少女の間で流行しました。幼い子供にも結いやすい手軽さと、結った際の可憐な見た目から、当時の町人層を中心に広い人気を得たと言われています。

この髪型に必要な髪の長さは、大人の日本髪に比べて短く、現代でいうセミロング程度の長さがあれば結うことができます。結い方としては、まず、髪全体を頭の中央で左右の二つに大きく分けます。次に、分けたそれぞれの毛束を、耳の少し上、やや側頭部の高い位置で仮に固定します。その後、左右で仮止めした毛束を頭頂部で一つに合わせて強く結び、これを土台となる髷（まげ）とします。この髷を作る際に余った毛先を、先ほど左右に分けたまま仮止めしておいた髪の毛束に巻き付けて形を整えます。この、毛先を他の髪に巻き付けた部分の見た目が、喫煙具であるお煙草盆の持ち手部分に滑り止めとして細い籐などが巻かれている様子と非常によく似ていたことから、この少女の髪型が「お煙草盆」と呼ばれるようになったとされています。

髪型の仕上げとしては、頭頂部で結んだ髷の中央部分を、鹿の子絞りなどの可愛らしい模様があしらわれた少女向けの手絡（てがら）や飾り紐などで包むように飾って完成となります。このように、「お煙草盆」という一見すると喫煙具を思わせる言葉が、時代の変遷や文化的な背景を経て、全く異なる意味や対象を指すようになった興味深い事例と言えるでしょう。

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